ヘルクレス座

ヘルクレス座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:8月ごろ。
■20時南中の時期:8月5日


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 ヘルクレス座は真夏の盛り、天頂付近に見える全天で5番目に大きな星座です。


 星座の形は五角形と台形を組み合わせた胴体に、広げた両手と片膝をついた足がくっついています。ヘルクレス座を構成する星は3等星以下の暗めの星ばかりなので、実際に見分けるのは少し難しいかもしれません。


 星図では片手にこん棒、もう一方の手に2匹の蛇もしくは林檎の枝を持った偉丈央の姿として描かれています。ただし天頂を上と見た場合、頭を南、つまり地面に向けているので、しばしば上下逆さまに描かれています。


 ヘルクレス座の右腰(天頂を上と見れば胴体部分の右上)、ζ(ゼータ)星とη(イータ)星の中問あたりには有名なヘラクレス球状星団M13があります。光度でいえば6等星くらいなので肉眼で見るのは少し難しいですが、天体望遠鏡で見ると5万個以上もの星が密集しているのがわかります。


 ヘルクレス座は、いうまでもなく英雄ヘラクレスの姿を象ったものですが(「ヘルクレス」とはヘラクレスラテン語読み)、古代ギリシアでは「エンゴナシン(脆く者)」「アイドロン(幻)」という名で呼ばれ、実際にこの星座とヘラクレスが結びついたのは少しあとの時代になります。またフェニキアでは、メルカルトという神の名で呼ばれ、あがめられていたという。


 神話に語られるヘラクレスは、まさしくギリシア最大の英雄である。その伝説を挙げれば数限りなく、またしし座やかに座、うみへび座のように星座の中にもヘラクレスの冒険に登場したものや、なんらかの形でヘラクレスとつながりをもつものが数多く存在します。

 

 

 神話は、もっとも有名な12の功業についての伝説を取り上げてみることにしましょう。

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★英雄ヘラクレス
 あるとき、大神ゼウスはミュケーナイの王女アルクメネーを見初め、彼女の夫アン
ピトリュオーンに姿を変えてアルクメネーと契りを交わした。

 アルクメネーにはゼウスの胤が宿り、やがて生まれたのが英雄ヘラクレスであった。

 ヘラクレスは赤子のころから神性をもっており、ゼウスの浮気に立腹していた女神ヘーラーが揺りかごに送り込んだ2匹の毒蛇を、素手で絞め殺すほどであった(一説には、ヘラクレスの父アンピトリュオーンが、ヘラクレスと彼の弟イピクレスのどちらに神性があるのか見極めようとして毒蛇を投げ込んだともいわれる。イピクレスば怯えて逃げたが、ヘラクレスは勇敢にも毒蛇を握りつぶしたため、アンピトリュオンはヘラクレスこそ神の血を引く子だと悟ったというのである)。


 ヘラクレスはアンピトリュオーンからは戦車を駆る術、アウトリュコスからはレスリング、エウリュトスからは弓術を学び、それらの技術を身につけた。だが、音楽の才にだけは恵まれていなかった。ヘラクレスに弾琴を教えたのは、かの伝説的詩人オルフェウス(琴座を参照)の弟といわれているリノスだったが、ペラクレスがあまりに物覚えが悪いのに腹を立てて殴ったところ、怒ったヘラクレスに琴で殴り返されて死んでしまった。

 アンピトリュオーンはそのような騒ぎを再び繰り返さぬため、ヘラクレスをキタイ
ロン山中の牧場に送った。そこでヘラクレスは羊飼いをしながらすくすくと育ったの
である。

 やがて成人した彼は、並外れた体と力をもつ青年となった。19歳(あるいは17歳とも)のころには山中に住んで家畜や人を襲っていた獅子を退治し、その皮をはいで頭の部分を兜代わりにかぶっていたという。

 やがて並ぶ者なき豪傑となったヘラクレスは、あるとき、オルコメノス国からテーバイ国へ貢ぎ物を受け取りに行く使者と出会った。当時、テーバイはオルコメノスに隷従しており、オルコメノスはテーバイに毎年100頭の牛を貢ぎ物として要求していたのである。

 気性の激しかったヘラクレスは使者の鼻と耳をそぎ落とし、紐でつないで使者の首にかけさせて「貢ぎ物の代わりにこれを持って帰れ」と言った。

 オルコメノスの王エルギノスはこれを知って激怒し、テーバイヘ大軍を率いて攻め寄せた。だがヘラクレスは戦女神アテナに神の武具を借り、劣勢だったテーバイの軍を奮い立たせてこれを率い、オルコメノス軍を討ち果たしたのである。

 ヘラクレスはエルギノスの首を収り、オルコメノスから逆に2倍の貢ぎ物を取り立てることで講和した。

 ヘラクレスはこの功績をたたえられ、テーバイ王クレオーンの娘、王女メガラを妻として与えられたのである。

 メガラは3人の子を生み、ヘラクレスは幸せに暮らしていたが、ヘーラーはまたしてもこれを憎んだ。

 そこでヘーラーは狂気の女神を遣わした。狂気の女神はヘラクレスに取り憑いて狂乱させ、メガラと3人の子をヘラクレス自身の手で殺させてしまったのである。

 正気に戻ったときにヘラクレスは自分のしてしまったことを深く悔やみ、国を捨てて贖罪の旅に出た。

 まずヘラクレスデルフォイの神殿に行き、罪を浄めるためにはどうすれぱいいか、神託を伺った。すると神託は、「ティーリュンスの王エウリュステウスに12年間仕え、彼の出す10の難業を成し遂げよ。さすれば神々の一員とならん」と告げた。

 なおヘラクレスという名は「ヘーラーの栄光」を意味する名である。本来の彼の名は「アルケイデス」といい、ヘラクレスの祖父アルカイオスの子孫という意味だったが、デルフォイで神託を受けたとき、ヘーラーの怒りを鎖めるためにヘラクレスに改名したといわれている。


★10の難業
 ヘラクレスは神託に従ってティーリュンスに赴いた。

 さて、ティーリュンスの王エウリュステウスはヘラクレスの従兄弟にあたるのだが、非常に傲慢にして卑劣、そのくせ臆病な男であった。

 そんな彼がなぜ王になれたかというと、ヘラクレスが生まれる直前、ゼウスが「次に生まれる者がミュケーナイの王となるだろう」という予言をしたのだが、これを耳にしたヘーラーが安産の女神エイレイテュイアに頼んでアルクメネーのお産を2ヵ月遅らせ、先にエウリュステウスが生まれるようにしむけたのである。結局この予言は成就され、エウリュステウスは成人してのち、ティーリュンスおよび前王アンピトリュオ-ン亡きあとのミュケーナイを治めていた。

 ところが自分よりはるかに強く、指導者の資質に優れたヘラクレスが現れると、彼は自分の王位が脅かされるものと思い、難業にかこつけてなんとか彼を排除しようとたくらんだ。


 第1の難業として、まずエウリュステウスはネメアの森に棲む獅子(獅子座)退治を命じた。化け物といわれる獅子相手ならば、ヘラクレスといえどかなうまいと考えたのである。
 だがヘラクレスは獅子を退治して帰ってきたので(しし座を参照)、エウリュステウスは大いに肝をつぶした。


 第2の難業はレルネの化け蛇ヒドラ(うみへび座)の退治である。いくら剣で斬っても死なない不死身のヒドラヘラクレスは少々手こずったものの、従者として連れて行った甥のイオラオスヒドラの傷口を火で焼くという機転を見せ、ヘラクレスはこの難業も無事こなした(うみへび座を参照)。


 第3の難業はケリュネイアの山に棲む鹿を生け捕りにせよというものだった。

 この鹿は金色の角をもち、月の処女神アルテミスの聖なる眷属だったので、ヘラクレスは鹿を傷つけないよう細心の注意を払わなくてはならなかった。

 そしてケリュネイア山中で1年もの間鹿を追いかけた末、ようやく捕らえることに成功したのである。

 ところがこの行いに立腹したアルテミスは、兄である太陽神アポローンと連れだって現れ、ヘラクレスを責めた。ヘラクレスはエウリュステウスの命令でやむなく鹿を捕らえたということを説明し、仕事がすみ次第、元どおりに放すことを約束してようやく了解を得たのである。


  第4の難業はエリュマントス山に棲む大猪の退治である。この大猪はブソービスの町を襲っては大いに住民を悩ませていた。

  ヘラクレスは猪の棲む洞窟の前で大声を上げて猪を追い出し、深い雪の中へ追い込んで、足が雪にはまって動けなくなったところを生け捕りにしたのだった。

  なお、この猪退治に赴く最中、彼は過ちからケンタウロス族の賢者ケイローン(いて座)を殺してしまっている(いて座、ケンタウルス座を参照)。


  第5の難業はエーリスの王アウゲイアースの厩(うまや)を1人だけで、1日で掃除せよというものだった。この厩はおそろしく広大で、しかも一度も掃除をしたことがないので肥がうずたかく積もり、凄まじい様相を呈していた。

 ヘラクレスはこのとき、アウゲイアースにエウリュステウスの命令で来たことを隠し、もし家畜の10分の1をくれるなら厩を掃除してやろう、という話をもちかけた。

アウゲイアースはまさか可能であるとは思われなかったので、息子のピューレウスを証人としてヘラクレスの申し出を受けた。

 ヘラクレスはこの難題を、厩の近くを流れるアルペイオス川の水を引き、厩の中に流し込んで、きれいさっぱり洗い流してしまうことで解決した。

 ところがアウゲイアースは家畜を渡すのを渋り、しかも彼がエウリュステウスの命で来ていたことを知ると、ヘラクレスをさんざんなじって約束を反故にした。

 証人となったピューレウスは信義を重んじる者だったので、アウゲイアースに家畜を渡すよう進言した。だがアウゲイアースは耳を貸さず、ヘラクレスともどもピューレウスを国外へ追放した。ピューレウスはその後、ドゥーリキオン島へ渡ってそこに住んだという。


 第6の難業はステュンパロス湖の鳥をなんとかせよというものだった。ステュンパロス湖とその周辺の森には無数の鳥が巣を作っており、近隣の町はその騒がしさで非常な迷惑をこうむっていたのである。

 ヘラクレスは熟考の末(あるいはアテナが知恵を貸したともいわれる)、青銅の巨大な銅鐸を打ち鳴らし、鳥たちが驚いて飛び立ったところを得意の弓矢で射落とした。


 第7の難業はクレタ島の牡牛を連れ帰ることだった。この牡牛はクレタの王ミノスが海神ポセイドンから生け賛として捧げるために手に入れたものだったが、牛の見事さに生け賛にするのが惜しくなったミノスがポセイドンとの誓約をたがえて別な牛を生け賛にしたため、ポセイドンの呪いによってひどく凶暴になってしまっていた(おうし座を参照)。

  ヘラクレスは独力でこれを捕らえてエウリュステウスのもとに持ち帰ったが、その後、牡牛はギリシア中で暴れ回り、のちにアテナイの英雄テセウスによって退治されることとなる。


 第8の難業はトラキア王ディオメデスが所有する牝馬を奪ってくることだった。この馬は武神アレースとニンフのキュレーネーの子ともいわれ(アレースはトラキアと縁の深い神で、アテナやアポローンといったほかの神にくらべて、野蛮で血なまぐさい性質をもっていた)、非常に凶暴で、ディオメデスはこの牝馬に人肉を与えて養っでいた。

 ヘラクレストラキアに赴いてディオメデスを殺し(そして馬に食わせたともいわれる)、牝馬を奪った。だがディオメデスの兵士たちが異変を聞きつけて集まってきたので、ヘラクレスは従者として連れていた少年アブデーロスに馬番をさせ、兵士たちと戦ってこれを潰走させた。


 ところ牝馬のところへ戻ってみると、アブデーロスは凶暴きわまるこの牝喝に食い殺されてしまっていた。

 ヘラクレスはこれを嘆き、少年を記念して近くに町を建設した。これがのちのアプデーラ市となったのである。


 第9の難業はエウリュステウスの娘アドメーテーの望みで、アマソンの女王ヒッポリュテの帯を取ってくることだった。

 アマソンはギリシアからはるか東、小アジアの奥にあるといわれた国で、弓を引くときに邪魔にならぬよう片方の乳房を切り落とした勇猛な女戦士たちによって治められていた。
 ヘラクレスは船を什立て、長い航海の末アマソンヘとやってきた。

 ヒッポリュテはヘラクレスを歓待し、帯を譲ることを快く承諾した。

 が、またしてもヘラクレスを憎むヘーラーの陰謀によって、アマソンの女戦士たちは「ヘラクレスがヒッポリュテをさらって行こうとしている」と信じ込んでしまった。

 女戦士たちは武器を手にヘラクレスの乗った船に押し寄せた。ヘラクレスはヒッポリュテにだまされたと思い、彼女を殺して帯を持ち帰った。

 異説では、ヘラクレスははじめからアマソンと戦ってその首領であるメラニッペーを捕虜とし、メラニッペーの姉ヒッポリュテが捕虜の代償として帯を渡したとするものもある。


 第10の難業は、怪物ゲリュオンが持つ赤い牛を奪ってくることだった。

 ゲリュオンは1つの胴体に3つの上半身と下半身をもつ巨人であり、しかも牧羊犬としてこれも凶暴な怪物オルトロスを飼っていた。オルトロスは、昔オリュンポスの神々と戦ったティタン神族の生き残りの怪物テュフォンとエキドナの子で、第1の難業で倒したネメアの大獅子の兄弟だといわれていた。

 ゲリュオンは世界の西の果ての近く、エリュテイア島に棲んでいた。

 ヘラクレスは太陽神ヘリオスから黄金の船を借り、それに乗ってオケアノスの大洋を渡ってエリュテイア島に上陸した。

 すると、さっそくオルトロスヘラクレスの臭いを嗅ぎつけて襲ってきた。ヘラクレスは視棒でこれを打ち殺し、牛を奪い去った。

 牛を船に乗せていたとき、騒ぎを聞きつけてゲリュオンがやってきた。ヘラクレスは船を出したが、海に入ってもゲリュオンはなお追ってきた。

 ヘラクレスは弓矢を取り、ゲリュオンの3つの頭すべてを撃ち抜いてこれを殺した。

 ヘラクレスヘリオスに黄金の船を返し、ティーリュンスに持ち帰った牛はヘーラーに棒げられた。
 これで10の難業はすべて果たしたはずだったが、エウリュステウスはそのうちの2つ、ヒドラ退治と厩掃除について難癖をつけた。ヒドラ退治はイオラオスの手を借りたこと、厩掃除は勝手にアウゲイアースと取り引きしようとしたことである。

エウリュステウスはこの2つを無効とし、新たな難業を言い渡した。

 

★新たなる難業
 第11の難業は、ヘスペリデースの園にある金の林檎を取ってくることだった。

 ヘスペリデースの園は、世界の西の果てにある仙苑である。ここには大地母神ガイアがゼウスに結婚の祝いとして贈った、金の林檎の木があった。その木は100の頭をもつ不死身の竜が守っており、生半可のことではこの難業を果たすことはできまいとエウリュステウスは思ったのである。

 だが、ヘラクレスはヘスペリデースの園へ行く途中、岩山に縛りつけられていた賢者プロメーテウスを助け、彼の助言に従って天を支える巨人アトラスの助けを得て、この難業を果たした(うしかい座を参照)

 

 そして最後、第12番目の難業は、地獄の番犬ケルベロスを連れて帰ることだった。

 ケルペロスは地獄の入り□を見張る番犬で、3本の首と蛇の尻尾をもち、さらに背中から無数の蛇が生えていた。このケルベロスもやはりオルトロスと同じくテュフォンとエキドナの子で、恐るべき怪物であった。

 さすがにこの難問にヘラクレスは頭を悩ませたが、アテナと伝令神ヘルメスに励まされ、タイナロン岬にある地獄へ通ずる穴を下って行った。

 ヘラクレスは冥王ハデスに会い、ケルベロスを貸してもらえないかと頼んだ。ハデベは「もしケルベロス素手で降参させることができたら貸してやろう」と答えた。

 ヘラクレスケルベロスと対峙した。ケルペロスは口から火を吐き、ヘラクレスに噛みついたが、ヘラクレスケルベロスの首をつかんで締め上げ、ケルベロスが暴れても蛇に噛みつかれても決して放さなかった。

 ついにケルベロスも降参し、ヘラクレスはエウリュステウスのもとヘケルベロスを待ち帰ったのである。

 ケルベロスはエウリュステウスを大いに驚かせたあと、ハデスのもとへと返された。

 

 こうして晴れて年季の明けたヘラクレスは、それからも各地を旅して、盗賊ケルコ ーペスを退治したり、厩掃除で約束をたがえたアウゲイアースに復讐するため、エーリスに攻め寄せてこれを陥落させたりとさまざまな伝説を作った。


 最後はヘラクレスが殺したケンタウロスのネッソスが、いまわのきわにヘラクレスの妻デイアネイラに「浮気を防ぐ薬」として与えた毒が原因で死んでしまうのだが(ケンタウルス座を参照)、その偉大なる功績をたたえて神々の一員に列せられ、天上へ昇って星となった。これがヘルクレス座となったのである。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」