こと座

こと座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:8月ごろ。
■20時南中の時期:8月29日
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 こと座は天の川のほとり、ほぼ天頂に浮かぶ、さそり座とともに代表的な夏の星座です。

 星座の形は小さな逆L字型をしています。星座の形とは若干異なっていますが、星図ではよく楽器のリラ、つまりU字型の枠に弦を張ったハープが描かれます。でも、古代エジプトの墳墓から発掘されたハープはL字型をしていて、星座が作られたころの古代オリエントではこのL字型のハープが一般的だったようです。

 この星座のα(アルファー)星ヴェガ(ベガ)は、日本でも有名な七夕の織姫(織女星)なので、知っている人も多いでしょう。このヴェガという名はアラビア名の「アル・ナスル・アル・ワーキ(落ちる鷲)」が変化したものですが、これはヴェガと隣にあるε(イプシロン)、ζ(ゼータ)の2つの星をつなぐとV字型になり、翼を畳んで下降する鷲の姿に見えることからきています。

 また、ヴェガは約1万2000年後に新しい北極星となることが予測されています。

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 神話では、琴座は伝説的な吟遊詩人、オルフェウスの持っていた琴だとされています。

 織姫と彦星の恋物語は有名ですが、ギリシア神話においてもこの星座には美しい悲恋の物語が込められています。

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★吟遊詩人オルフェウスの物語
 トラキア王オイアグロスと、9人の音楽の神ムーサイの1人、カリオベーの間にオルフェウスという子がいた(太陽神アポローンとカリオペーとの子とする説もある)。

 さて、アポローンは亀の甲羅に7本の弦を張って作った竪琴を持っていた。これはアイディアにあふれた伝令神ヘルメスが生まれてすぐ作った琴で、アポローンは自分の家畜と引き換えにそれを譲り受けたのだった。

 アポローンは楽才に恵まれたオルフェウスに竪琴を与え、オルフェウスは9人のムーサイをたたえるという意昧を込めて、竪琴にさらに2本の弦を加えて9本の弦をもつ竪琴にしたという。やがて、オルフェウスギリシアでもっとも優れた吟遊詩人となった。彼がひとたび竪琴をかき鳴らせば動物たちでさえ聞き惚れ、強風にざわめく樹々や荒ぶる海でさえ収まるほどだったという。

 オルフェウスはイオールコス国の王子イアーソーンの率いるアルゴ号探検隊にも加わった。オルフェウスは快速船アルゴ号の行く手を阻む嵐を竪琴の音で鎖め、シチリア島の近くで美しい歌声で船員を惑わす魔物セイレーンに襲われたときは、オルフェウス自身の歌声でセイレーンの魔力をうち破った。仲間の1人ブテスはセイレーンのもとへ行ってしまったが、この活躍によって残る英雄たちの命は救われたのである。

 さて、オルフェウスには木の精女エウリュディケーという美しい妻がいた。夫婦はともに愛し合い、幸せな生活を築いていたが、アポローンの息子の1人、アリスタイオスがエウリュディケーに横恋幕するという事件が起きた。

 あるとき、アリスタイオスはエウリュディケーが1人で野原にいるのを見つけ、彼女を手に入れようとして追いかけた。エウリュディケーは走って逃げたが、そのとき誤って踏みつけた毒蛇に噛まれてしまい、死んでしまった。

 最愛の妻を失ったオルフェウスは、冥界に妻を取り戻しに行くことを決心した。タイナロスの岬にある洞穴からオルフェウスは冥界へと下り、ステュクス河(冥界と現世を隔てる川)の渡し守であるカロンや、地獄の門を見張る3つ首の番犬ケルベロスを美しい歌声で宥め、通り抜けていった。

 やがて冥界の王ハデスの前にたどり着いたオルフェウスは、妻を返してくれるように懇願した。しかし、もちろんそれをハデスが了承するはずもない。そこでオルフェウスはあらん限りの声で歌を歌い、竪琴を奏でた。

 その歌声の美しさに、さしものハデスも心を動かされ、エウリュディケーを連れて帰ることを許した。ただし、地上に戻るまでエウリュディケーは必ずオルフェウスの後ろについて歩き、ひと言も発してはならないこと、オルフェウスは決して振り向いてはならないことという2つの条件付きだった。

 オルフェウスは妻を連れて帰途についた。2人はともにハデスとの約束を守り、黙って歩いた。が、出口が見えたとき、オルフェウスは険ろがあまりに静かなので、ハデスが嘘をついたのでは、という疑念にかられてつい、後ろを振り向いてしまった。

 すると、果たしてそこには悲しげな顔をしたエウリュディケーが立っていた。

 .そして、瞬く間にエウリュディケーの身体は冥界に引き戻されてしまったのである。

 オルフェウスは自分の愚かさを呪い、各地をさまよった。彼は亡き妻を愛するあまり、決してほかの女性に目を向けようとしなかった(一説には少年しか愛せなくなってしまった、とするものもある)。

 そして最後にはオルフェウスに相手にされないことに腹を立てた女たちによって八つ裂きにされ、ばらばらになった身体をヘブロス川に流されてしまったのである。

 彼の持っていた竪琴は身体とともにヘブロス川へと投げ捨てられたが、オルフェウスの楽才を惜しんだ大神ゼウスが拾い上げて天に昇らせ、星にしたという。これが琴座である。

 なお、彼の遣骸はレスボス島に流れ着き、そこに住む人々の到こよって葬られた。

 オルフェウスの墓からは長い間、悲しげな歌声と竪琴の音が流れ出たという。

 

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」