おおいぬ座

おおいぬ座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:2月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:2月26日
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 おおいぬ座は真冬、南東の空に見られる星座です。

 星座の形は、α星シリウスを口とした三角形の頭部に鼓型の胴体をもち、尾と4本の足がいまにも歩き出すような格好で並んでいます。非常にうまく犬の姿をあらわしていて、星の並びから犬の姿を思い浮かべるのは容易である。

 おおいぬ座は太陽を除いて全天でもっとも明るい恒星・シリウス(「輝くもの」「焼き焦がすもの」の意味)を主星にもつことで有名です。標準的な1等星の13倍もの明るさをもつシリウスは、ときとしておいいぬ座そのものよりも重要視されました。

 古代エジプ卜では夏至(古代エジプトでは元旦にあたる)のころ、夜明けの直前にシリウスが昇るのを見てナイル川が増水する時期を知った。このことからシリウスを「ソティス(水の上の星)」 と呼び、肥沃な土と恵みをもたらすものとして崇拝していました。また、エジプトの冥府の神である犬頭の神アヌビスとされることもあり、ナイル川の増水による被害を警告する役目を負っていた。さらに元旦の夜明けに昇る星であることから、愛と生命の象徴として女神イシスと見ることもありました。

 中国ではシリウスを「天狼(てんろう)星」と呼び、その輝きから狼の目を連想したもののようです。

 またβ(ベータ)星ミルザムを「野鶏(やけい)Jと呼んで、天狼はその星を狙っているとされます。

 英語圏ではシリウスを「Dog Star 犬の星)」、7月初旬から8月中旬ごろ非常に暑い時期を「Dog Days (犬の日)」ということがありますが、これはシリウスが太陽とともに昇る時期を指しています。

 ローマ時代のギリシアでもほぼ同じ時期のことを「犬の日」といい、草木が炎暑によって枯れるのは太陽とシリウスが引き起こしていると信じていました。そして厄払いのため赤犬を生け賛に捧げたという。

 神話では、おおいぬ座は狩人オリオン(オリオン座)の連れていた猟犬であったとする説がもっとも有名ですが、ここではもうひとつの神話、世界でもっとも速いといわれた猟犬ライラプスの伝説を紹介しましょう。

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★疑うケパロス
 ケパロスはポーキス王デーイオーンの息子で、とても美しい青年だった。

 ところが、ケパロスの美しさに横恋慕した女神がいた。曙の女神エーオースである。

 エーオースは嫌がるケパロスを無理矢理さらって恋人としたが、ケパロスがいつまでも妻のことを口にするので、とうとうあきらめて故郷に帰すごとにした。

 しかしケパロマを帰す際、エーオースはふといたずら心を覚えて「プロクリスはあんなに美しいのたから、おまえのいない間に浮気しているにちがいない」といった。

 妻の美しさを誰よりも良く知っているケパロスは、エーオースの言葉に大いに不安をかき立てられた。そこでケパロスは、妻が心変わりしていないかどうかを確かめるため、エーォースの力を借りて別の男に姿を変えると、旅人を装ってプロクリスのもとを訪ねた。

 ケパロスは、言葉巧みにプロクリスを誘惑し、そして金銀財宝の贈り物を見せた。

 はじめは夫に操をたてていたプロクリスではあったが、男の執拗な口説きについに折れ、身体を許すことを受け入れてしまった。

 するとケパロスは正体を現し、妻の不貞を大いになじった。プロクリスは恥ずかしさと怒りで、そのまま家を飛び出してしまった。


ライラプスと狐
 プロクリスはその後、クレタ島にたどり着き、ミノス王の愛人となった。

 ミノス王はプロクリスに、狙った獲物を必ず捕らえる猟犬ライラプス(「台風」「暴風」)と、狙ったものを必ず射止める槍を贈った。

 だがプロクリスは、ミノス王の妻パシパエの嫉妬を恐れ、王と別れてクレタ山を離れた。そしてケパロスと再会し、和解のしるしにケパロスにライラプスと槍を渡した。

 さてケパロスはライラプスと槍を持って、国中を荒らしている狐を退治に出かけた。

 しかし狐のあまりのすばしこさに、ライラプスの足でもなかなか追いつくことができない。業を煮やしたケパロスが槍を投げつけようとしたとき、この素晴らしい狐と犬が傷つくことを恐れた大神ゼウスがライラプスを天に上げ、おおいぬ座にしたという(別説では、乙の狐は追いかけても決して捕らえられないという特性をもった狐であったとされる。一方、ライラプスは獲物を必ず捕らえる猟犬であったため、この狐と猟犬の追いかけつこという矛盾に答えを出すため、ゼウスが両者を石にすることで決着を見たというものもある)。


★悲劇のプロクリス
 それからしばらくの問、ケパロスとプロクリスは平穏に暮らしていた。

 ところで、ケパロスは狩りをしたあと、汗をかいた身体を冷やそうといつも「アウラ (微風)よ、我が胸の火照りを鎮めておくれ」と口にしていた。

 これを耳にしたプロクリスは、アウラを女性の名前と勘ちがいし、せっかく取り戻した夫をまたほかの女に横取りされるのではないかと心配して、こっそりと狩りをするケパロスのあとをつけた。

 ところが藪の中に隠れてケパロスの様子をうかがっていたプロクリスを、ケパロスは獲物とまちがえて槍を投げつけ、殺してしまった。

 過ちに気付いて駆けつけた夫に、プロクリスは「どうかアウラという女を私の代わりにはしないでほし」と言い残したという。

 ケパロスはこの後、妻を殺した罪により、終身追放を言い渡された。行きちがいからとは いえ、人の心の弱さが引き起こした悲劇である。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」