おおいぬ座

おおいぬ座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:2月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:2月26日
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 おおいぬ座は真冬、南東の空に見られる星座です。

 星座の形は、α星シリウスを口とした三角形の頭部に鼓型の胴体をもち、尾と4本の足がいまにも歩き出すような格好で並んでいます。非常にうまく犬の姿をあらわしていて、星の並びから犬の姿を思い浮かべるのは容易である。

 おおいぬ座は太陽を除いて全天でもっとも明るい恒星・シリウス(「輝くもの」「焼き焦がすもの」の意味)を主星にもつことで有名です。標準的な1等星の13倍もの明るさをもつシリウスは、ときとしておいいぬ座そのものよりも重要視されました。

 古代エジプ卜では夏至(古代エジプトでは元旦にあたる)のころ、夜明けの直前にシリウスが昇るのを見てナイル川が増水する時期を知った。このことからシリウスを「ソティス(水の上の星)」 と呼び、肥沃な土と恵みをもたらすものとして崇拝していました。また、エジプトの冥府の神である犬頭の神アヌビスとされることもあり、ナイル川の増水による被害を警告する役目を負っていた。さらに元旦の夜明けに昇る星であることから、愛と生命の象徴として女神イシスと見ることもありました。

 中国ではシリウスを「天狼(てんろう)星」と呼び、その輝きから狼の目を連想したもののようです。

 またβ(ベータ)星ミルザムを「野鶏(やけい)Jと呼んで、天狼はその星を狙っているとされます。

 英語圏ではシリウスを「Dog Star 犬の星)」、7月初旬から8月中旬ごろ非常に暑い時期を「Dog Days (犬の日)」ということがありますが、これはシリウスが太陽とともに昇る時期を指しています。

 ローマ時代のギリシアでもほぼ同じ時期のことを「犬の日」といい、草木が炎暑によって枯れるのは太陽とシリウスが引き起こしていると信じていました。そして厄払いのため赤犬を生け賛に捧げたという。

 神話では、おおいぬ座は狩人オリオン(オリオン座)の連れていた猟犬であったとする説がもっとも有名ですが、ここではもうひとつの神話、世界でもっとも速いといわれた猟犬ライラプスの伝説を紹介しましょう。

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★疑うケパロス
 ケパロスはポーキス王デーイオーンの息子で、とても美しい青年だった。

 ところが、ケパロスの美しさに横恋慕した女神がいた。曙の女神エーオースである。

 エーオースは嫌がるケパロスを無理矢理さらって恋人としたが、ケパロスがいつまでも妻のことを口にするので、とうとうあきらめて故郷に帰すごとにした。

 しかしケパロマを帰す際、エーオースはふといたずら心を覚えて「プロクリスはあんなに美しいのたから、おまえのいない間に浮気しているにちがいない」といった。

 妻の美しさを誰よりも良く知っているケパロスは、エーオースの言葉に大いに不安をかき立てられた。そこでケパロスは、妻が心変わりしていないかどうかを確かめるため、エーォースの力を借りて別の男に姿を変えると、旅人を装ってプロクリスのもとを訪ねた。

 ケパロスは、言葉巧みにプロクリスを誘惑し、そして金銀財宝の贈り物を見せた。

 はじめは夫に操をたてていたプロクリスではあったが、男の執拗な口説きについに折れ、身体を許すことを受け入れてしまった。

 するとケパロスは正体を現し、妻の不貞を大いになじった。プロクリスは恥ずかしさと怒りで、そのまま家を飛び出してしまった。


ライラプスと狐
 プロクリスはその後、クレタ島にたどり着き、ミノス王の愛人となった。

 ミノス王はプロクリスに、狙った獲物を必ず捕らえる猟犬ライラプス(「台風」「暴風」)と、狙ったものを必ず射止める槍を贈った。

 だがプロクリスは、ミノス王の妻パシパエの嫉妬を恐れ、王と別れてクレタ山を離れた。そしてケパロスと再会し、和解のしるしにケパロスにライラプスと槍を渡した。

 さてケパロスはライラプスと槍を持って、国中を荒らしている狐を退治に出かけた。

 しかし狐のあまりのすばしこさに、ライラプスの足でもなかなか追いつくことができない。業を煮やしたケパロスが槍を投げつけようとしたとき、この素晴らしい狐と犬が傷つくことを恐れた大神ゼウスがライラプスを天に上げ、おおいぬ座にしたという(別説では、乙の狐は追いかけても決して捕らえられないという特性をもった狐であったとされる。一方、ライラプスは獲物を必ず捕らえる猟犬であったため、この狐と猟犬の追いかけつこという矛盾に答えを出すため、ゼウスが両者を石にすることで決着を見たというものもある)。


★悲劇のプロクリス
 それからしばらくの問、ケパロスとプロクリスは平穏に暮らしていた。

 ところで、ケパロスは狩りをしたあと、汗をかいた身体を冷やそうといつも「アウラ (微風)よ、我が胸の火照りを鎮めておくれ」と口にしていた。

 これを耳にしたプロクリスは、アウラを女性の名前と勘ちがいし、せっかく取り戻した夫をまたほかの女に横取りされるのではないかと心配して、こっそりと狩りをするケパロスのあとをつけた。

 ところが藪の中に隠れてケパロスの様子をうかがっていたプロクリスを、ケパロスは獲物とまちがえて槍を投げつけ、殺してしまった。

 過ちに気付いて駆けつけた夫に、プロクリスは「どうかアウラという女を私の代わりにはしないでほし」と言い残したという。

 ケパロスはこの後、妻を殺した罪により、終身追放を言い渡された。行きちがいからとは いえ、人の心の弱さが引き起こした悲劇である。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

こいぬ座

こいぬ座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:3月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:3月11日
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 こいぬ座は早春の南の空、天の川のほとりにひときわ眩しく輝く小さな星座です。

 こいぬ座と名は付いているものの、星座を構成する星は1等星プロキオンと等星ゴメイサの2つしかありません(星図によっては、ゴメイサの東側にある5等星を含むこともあります)。プロキオンの白い輝きは確かに元気な子犬を連想させなくもないですが、星の並びから子犬の形を想像するのは少し無理があるでしょう。

 α星プロキオンは「犬の前に」という意味の名で、大犬座の1等星シリウスに先駆けて空に昇るところからこの名が与えられた。同様に、星座名の由来は小犬座が昇ってから約20分後におおいぬ座が昇ってくるため、大いぬと対比して小いぬと名付けられたのだといわれています。

 このプロキオンおおいぬ座シリウス、そしてオリオン座の1等星ベテルギウスを結ぶと、有名な「冬の大三角形」ができあがります。この三角形の1辺は約24度もの長きがあり、冬の夜空の美観のひとつとなっています。

 また、古代エジプトではシリウスの位置によってナイル川の増水する時期を知ったため、プロキオンはその予報として役立っていました。

 神話では普通、こいぬ座は猟師アクタイオンの飼っていた猟犬メランポスとして描かれていますが、もう少しマイナーな神話にアテナイの王イカリオスの飼い犬メーラであったというものがあります。
 その両方の神話について紹介しましょう。

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★猟犬メランポス
 アクタイオンは農芸の神アリスタイオスの子で、半人半馬の姿をもつケンタウロス
族の賢者ケイローン(射手座)に弓を学び、狩りの名人となった。

 ある日、アクタイオンは飼っていた猟犬メランポスを連れて鹿狩りに出かけた。ところがいくら森を歩き回ってもまったく獲物に出会わず、日も傾いて、落胆して帰途に着いた。

 ところがその途中、森の泉を通りかかったときに、1人の素晴らしく美しい女性が精女たちにかしずかれて水浴びをしているのをのぞき見てしまった。


 アクタイオンが見ているのに女性が気付くと、彼女は怒りに燃え上がり、「私の裸を見たとその□で言えるものなら、言ってみるがいい」と言ってアクタイオンを鹿の姿に変えてしまった。その女性とは、誇り高く純潔を旨とする月の処女神アルテミスだったのだ。

 鹿になったアクタイオンは自分の猟犬であるメランポスに襲いかかられ、ついにかみ殺されてしまったのである(メランポスがなぜ天に上げられ、星座となったかは正確なところはわからない。だが、おそらくは知らずに主人をかみ殺してしまった猟犬に哀れを覚え、アルテミスがそうはからったのではないだろうか)。


★忠犬メーラ
 アテナイの北、土壌の豊かなイカリアの地を治める王に、イカリオスという者がいた。

 イカリオスは酒神バッカスを信仰していたため、バッカスは彼に葡萄の木を与え、酒の作り方を教えた。その酒の味たるやなんとも心地良いもので、イカリオスはこの喜びを領地の農民たちにも分け与えようと酒を造り、皆を呼んで振る舞った。

 ところが農民たちはイカリオスの作った酒を水で薄めず(当時、ギリシアでは酒は水で薄めて飲むのが普通だった)生のまま飲んでしまい、大いに酔っぱらってしまった。

 農民たちは身体が熱くなり、ふらふらしはじめたので、これはイカリオスに毒を飲まされたのだと勘ちがいしてしまった。怒った農民たちはイカリオスをばらばらに引き裂いて殺し、1本の木の下に埋めたのである。

 そのころ、イカリオスの王女エーリゴネーは、父が酒の袋を持って出かけたまま失失踪してしまったのをしきりに心配し、イカリオスの飼っていた忠犬メーラを連れて方々をめぐってはイカリオスの行方を尋ねた。

 エーリゴネーは長い間探し続けた末、1本の葡萄の木のそばを通りがかった。するとメーラが突然騒ぎはじめ、葡萄の木に身体をすり寄せたのである。

 エーリゴネーは即座にその意昧を悟った。この葡萄の木こそ、イカリオスの亡骸が埋められた場所なのだ。父の死を知ったエーリゴネーは絶望し、その木の枝に縄をかけ、首をくくって死んでしまったのである。

 イカリオスに尽くし、のちにエーリゴネーを守り続けた忠犬メーラは、2人の死後も亡骸のそばを去ることなく、自分が死ぬまでそこにたたずんでいた。

 この忠節をたたえられ、メーラは死後天に昇って小犬座になったのだという。

 なお、この後イカリアの地には悪疫が流行し、飢饉が訪れた。人々が神託を伺うと「イカリオスとエーリゴネーの亡骸を祀り、贖罪の浄めをしなくてはならない」といことだった。

 そこで人々は毎年、葡萄の木に人形や面をぶらさげ、イカリオス親子を祀るようになった。これがアイオーラーの祭式として、のちの世に続いていったという。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

ぎょしゃ座

ぎょしゃ座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:2月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:2月15日
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 ぎょしゃ座は晩冬、天頂近くの北の空に見える、比較的大きな星座です。

 星座の形は、やや長細い五角形の胴体に小さな腕がついています。ただ、胴体の左下の星、γ(ガンマ)星エルナトは現在では牡牛座のβ星とされており、ぎょしゃ座のγ星は欠番となっています。

 ぎょしゃ座のα(アルファ)星カペラは、全天の中ではもっとも北極に近い1等星です。真夏を除けばほとんど北の空に1年中その姿を見ることができるので、古代バビロニアでは「ディルガン」または「イク」と呼び、最高神マルドウクの星として崇拝していました。

 インドでも同じく最高神である「ブラフマーの胸」とよびました。アラビアでは「星の長」と呼び、またカペラのそばにある牡牛座のプレアデス星団を駱駝の群と見て、それを串いる「駱駝使い」と呼ぶこともありました。

 また、ぎょしゃ座の左ひじにあたる2つの星ζ(ゼータ)星ホエドウス・プリムス、η(イータ)星ホエドウス・セクンドウスは古代ギリシアでは小山羊(こやぎ)座として、独立した星座の名が与えられていました。現在でもラテン語の辞書の中には、ハエディ(ホエドウスの複数形)を小山羊座と記載するものがあります。

 星図では、ぎょしゃ座は子鹿(山羊、羊との説もあり)を抱いた、もしくは鞭を持った男の絵として描かれています。なお、ぎょしゃ座の馭者は荷馬車などを運転する人ではなく、古代の4輪戦車を駆る戦士のことです。

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★蛇王エリクトニオス
 鍛冶の神ヘパイストスは女神の中でももっとも美しいといわれる美神アフロディテーを妻としていたが、多くの愛をつかさどるアフロディテーもまた気が多く、なかぱ公然と軍神アレースと浮気していたのでヘパイストスは欲求不満気昧であった。

 そんなあるとき、戦女神アテナがヘパイストスに武器の製造を頼みにやってきた。

 アテナは猛々しい戦神ではあるが、その一方で凛々しい美しさももち合わせていた。ヘパイストスはそんなアテナの姿を見て欲情を爆発させ、アテナを追いかけた。

 驚いたアテナは逃げ出したが、ヘパイストスは驚くべき素早さで追いすがり、大地に組み敷いた。しかしアテナの激しい抵抗にあい、ヘパイストスは想いを遂げることはできなかった。

 その際、ヘパイストスの放った精がアテナの身体にかかった。アテナがそれを羊毛でふき取って地面に落とすと、そこから1人の赤子が生まれた。

 アテナはその赤子をエリクトニオスと名付け、箱に入れてアテナイの初代王ケクロプスに「決して中を見てはいけない」と言って預けた。

 箱はケクロプスの3人の娘、アグラウロス、ヘルセ、パンドロスの手によって大切にしまいこまれたが、やがて娘たちはどうしても箱の中を見たいという誘惑に駆られろようになった。

 そしてある日、とうとう娘たちは誘惑に負けて箱の中を覗いてしまったのである。

 娘たちは中を見て凍りついた。箱の中にいたのは赤子にからみつく、1匹の大蛇だったのだ(あるいは下半身が蛇の赤子とも、蛇そのものがいたとも伝えられる。なお。

ケクロプス自身も大地から生まれ、下半身が蛇であったという伝説がある)。

 その姿の恐ろしさに娘たちはたちまち気がふれてしまい、次々にアクロポリスの崖から身を投げて死んでしまった。

 さて、エリクlヽニオスはすくすくと育ち、やがてアテナイ3代目の王アンピクテュオンを追放し(あるいは跡を継いで)4代目の王となった。

 しかし、エリクトニオ.スは生まれつき足が不自由であった(このあたりについては、赤子の時分に蛇が足にからみついていたため、または下半身が蛇そのものであったため、または彼の父が足の悪いヘパイストスであったため、などさまざまな説明がある)。そこでエリクトニオスは馬に曳かせる戦車(チャリオット)を発明し、王として勇敢に振る舞ったといわれる。

 そのほかにもアクロポリスにアテナ像を建てたり、アテナを祀るパンアテナイア祭を開催したりとアテナ女神に尽くしたため、死後は神々に天上に昇ることを許され、ぎょしゃ座となったのである。

 ちなみにこの話には蛇が多く登場するが、蛇はアテナ女神の使いであり、大地の女神のシンボルでもある。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

さんかく座

さんかく座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:12月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:12月17日
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 さんかく座はアンドロメダ座のすぐ隣、腰にあたるβ星のミラク(「腰」の意味)からちょっと南側にずれたところにある、小さな星座です。

 さんかく座はその名のとおり、3つの3等星で作られた、細長い二等辺三角形をしています。小さくともわりと目立つ星座なので、秋から冬にかけての条件の良い夜ならさほど苦労せずに見つけることができるでしょう。


★ナイルの三角州
 さんかく座はかなり古い時代から知られており、古代ギリシアでは「デルトトン」、つまりデルタ座の名で呼ばれていました。いうまでもなくこれはギリシア文字の4番目、大文字のデルタ「△」に由来します。

 エジプトでは「ナイルの家」「ナイル川のデル」の名でよびました。こちらのデルタはギリシア文字ではなく、ナイル川にある三角州(デルタ)のことを指しています。

 また、アラビアではこの星座のα星カプト・トリアングリ(三角の頂点)とβ星を結ぶ線を「アル・ミーザーン(秤竿)」と呼んでいました。

 中世になってキリスト教の時代に入ると、さんかく座はキリスト教の「神と聖霊と人間の調和」を謳った三位一体の教えのシンボルとされたり、初代ローマ法王とされる使徒ペテロのかぶっていた三角形の頭巾と見られたりもしていました。

 日本でもこの星座を「三角星」と呼ぶ地方があります。

 さんかく座はプトレマイオスの設定した48星座の中に入っていますが、残念ながらこの星座に関して伝わっている神話はありません。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

ペガスス座とこうま座

 ペガスス座とこうま座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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オオカミ座

■よく見える季節:10月ごろ
■20時南中の時期:10月25日


さいだん座

■よく見える季節:10月ごろ。
■20時南中の時期:10月5日

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 ペガスス座は秋、南東の空に浮かぶ、かなり大きな星座です。

 星座の形は、巨大な四辺形の胴体にこころもち顎を引いた馬の頭部と、前に大きく伸ばしていまにも駆け出そうとする姿勢の前足がついています。

 ベガスス座のユニークなところは、星座の一部を隣のアンドロメダ座と共有していることです。ペガスス座のα(アルファ)星マルカブ(「乗り物」。転じて馬や駱駝)、β(ベータ)星シェアト、γ(ガンマ)星アルゲニブと、アンドロメダ座のα(アルファ)星アルフェラッツ(「馬のへそ」。古代アラビアでは「アル・ラス・アル・マラー・アル・ムサルサラー」、鎖につながれた女の頭と呼び、こちらのほうがアンドロメダ座の星名としてはふさわしいですが、今日では使われていません)を結んだ巨大な四辺形がペガススの胴体となっています。この四辺形は「ぺガススの四辺形」と呼ぱれていて、1辺の長さが約15度もあります。

 神話では、ペガスス座は妖怪メドウーサの血から生まれてきた、翼をもつ天馬ペガサスとされています(―脱には、海神ポセイドンとメドウーサとの交わりでできた胤(たね)ともいわれています)。


 こうま座はペガスス座の頭部といるか座の間にある、全天で2番目に小さい、目立たない星座です。形は4つの星が小さなゆがんだ台形をしていて、星図では馬の頭部だけが描かれます。ちょうどペガスス座の向こうにもう1頭の馬がいるように見えるので、小馬の名が与えられたのだと推測されています。


 神話では、こうま座はペガサスの弟にあたるケレリスという馬で(ペガサスの出生を考えるといささか奇妙です)、伝令神ヘルメスが英雄カストル(ふたご座)に与えたものだといわれています。別説では、旧約聖書の「エステル記」第4章に登場する馬だというものもあります。とはいえ、残念ながらこうま座には神話・伝説となるほどの話は残っていません。

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★血と岩から生まれた天馬
 大神ゼウスとアルゴスの王女ダナエーの子に、ペルセウスペルセウス座)という英雄がいた。

 ベルセウスとダナエーは、まだペルセウスが赤子の時分に祖父であるアルゴス王アクリシオスによって箱に入れられ、海に流された。アクリシオスが受けた「ダナエーの生む男児が、おまえを殺すだろう」という予言を恐れたためである。

 やがて2人はセリーポス島に流れ着き、新たな生活をはじめることとなった。

 ペルセウスはすくすくと育って成人し、なんの問題もないように思えたが、セリーポス島の王ポリュデクテースがいまだ容色の衰えぬダナエーに想いをかけ、邪魔なベルセウスをなんとかして排除しようと考えた。

 そこでポリュデクテースはペルセウスに、妖怪ゴルゴーンの首を取ってくるように命じた。

 ゴルゴーンとは蛇の頭髪と猪の牙をもち、視線を合わせた者を即座に石に変えてしまうという恐ろしい不死身の怪物3姉妹である。この怪物相手では、さしものペルセウスも生きて帰れる見込みはあるまいとポリュデクテースは考えたのだ。

 しかしペルセウスは戦女神アテナら神々の助けを得て、長い旅の末にゴルゴーン3姉妹のうち唯一不死身ではなかった末妹・メドゥーサを倒すことに成功した(ペルセウス座を参照)。

 このとき、切り落としたメドゥーサの首から血が飛び散り、岩にしみ込むと、そこから翼を生やした天馬、ペガサスが生まれ出てきたのである。

 ペルセウスはペガサスに乗り、帰途に着いた。途中、エチオピアでクジラの怪物の生け賛にされていたアンドロメダ姫(アンドロメダ座)を助けて一子ペルセースをもうけた。そして1年後、ペルセウスは故郷セリーポス島でポリュデクテースに復讐を果たすのである。

 その後、ペガサスはメドゥーサの首と一緒にアテナに捧げられ、のちに詩の女神ムーサイたちに与えられた。ペガサスはムーサイたちの住むヘリコーン連山に放たれると、地面を蹴り、その蹄の跡から泉を湧き出させた。その泉は「ヒッポクレーネー(馬の泉)」と呼ばれている。

 

★神になろうとした勇者
 ベレロポーンは眉目秀麗、武術と勇気に優れた、コリントスで並ぶ者なき勇者だった。その勇者ぷりは、ペイレーネーの泉で水を飲む天馬ペガサスを女神アテナから受け取った黄金の手綱で捕らえ、乗りこなすほどだったのだ。

 さて、ペレロポーンがアルゴス王プロイトスのもとに身を寄せていたとき、プロイトスの妻アンテイアがベレロポーンに懸想し、しきりに言い寄ってきた。

 しかし、誇り高い青年であったベレロポーンはそのような不貞の恋を激しく非難し、アンテイアの誘惑をすべてはねつけた。

 怒ったアンテイアは自分の衣服を裂き、プロイトスに「ベレロポーンに襲われそうになった」と嘘を告げた。

 プロイトスはベレロポーンの忘恩に怒り狂ったが、自分の客人を殺すことは道義にもとることだった。そこでベレロポーンをアンテイアの父であるリュキア王イオバテ-スのもとへ、「なんとか手段を講じてこの男を始末してくれ」という手紙と一緒に送った。

 手紙を読んだイオパテースは、ベレロポーンに国を荒らしていた怪物キマイラの退治を命じた。キマイラは獅子と牡山羊の頭をもち、口から火を吐くという恐ろしい化け物である。これならぱ、ベレロポーンとてかなうはずもあるまいと思ったのだ。

 ところが、ペレロポーンはペガサスに乗って意気楊々と飛び出し、キマイラに巨大な鉛の塊を投げつけて、あっさりと殺してしまった。

 イオパテースは、そのほかにもソリュモイ人やアマソンの女戦士族の討伐を命じたが、ベレロポーンはそれらを難なくやってのけ、最後にはイオバテース白らがペレロポーンを殺すべく雇った兵士たちをも皆殺しにした。

 ここにきてイオバテースもベレロポーンをただ者ではないと認め、末の娘と自分の国の半分を与えて、大いにもてなしたのである。

 だが、ベレロポーンはこれらの成功に気を良くし、驕り高ぶってしまった。

 あるとき、彼は自分こそ神々の一員になるにふさわしいと思い、ペガサスに乗って天上界へ昇ろうとした。だが大神ゼウスは、ベレロポーンのこの思い上がった行為に怒りを覚え、1匹の虻を遣わしてペガサスの尻を刺させた。するとペガサスは途端に暴れ出し、ペレロポーンを振り落としてそのまま天へと走り去ってしまったのである。

 ベレロポーンはアレイオーンの野に落ちて片足を失い、惨めな晩年を送ったという。

 そして天上界まで走ったペガサスはゼウスの雷光を運ぶ軍馬となり、やがて星となった。これがペガスス座である。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

みなみのうお座

みなみのうお座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:10月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:10月17日
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みなみのうお座は秋、南の空に見られる星座です。
みなみのうお座という名前は、黄道12星座のうお座に対して南よりの空にあることから名付けられました。さほど大きな星座ではありませんが、中心に1等星フォーマルハウトがあり、さらにみなみのうお座の周囲には明るい星がないことから、ひときわ目立つ星座です。

星座の形は、弦側を下方にやや反った半月型をしており、水面から飛び跳ねる魚の姿をうまくあらわしています。星図でも同様に、仰向けになった魚の姿で描かれています。


 みなみのうお座のα星フォーマルハウ卜の名は、アラビア語の「フム・アル・フート(・アル・ゲヌビ)」 (「南の」魚のロ)からきていて、水がめ座の持つ瓶からこぼれ落ちる水を、仰向けになったみなみのうお座がこのロで受け止めています。アラビアでは「第1のかわず「ダチョウ」、また周辺に星がなく、ぽつねんとした印象を受けることから「寂しきもの」とよびました。

 紀元前2000年ごろのペルシアでは、フォーマルハウト、アルデパラン(おうし座)、レクルス(しし座)、アンタレス(さそり座)の4つの星をそれぞれ東西南北の四方を守る「王の星」と見、フォーマルハウトを「ハストラング(北)」と呼んでいました。

神話では、南魚座は美の女神アフロディテーが怪物テュフォンに追われたとき、ナイル川に逃れて変身したものだといわれています(やぎ座を参照)。

 また、うお座の親戚だともいわれていますが、これはうお座が同じくテュフォンに追われて変身したアフロディテーの息子エロースであることとも関係があるのでしょう。


神話では、アフロディテーについて伝わるを紹介しましょう。

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アネモネの花
 キュプロス島の王、テイアースにミュラ(もしくはスミュルナ)という娘がいた。

 あるとき、ミュラは美の女神アフロディーテヘの祭祀をおこたったため、女神の怒りを買って、実の父親であるテイアースに恋心を抱く呪いを受けてしまった。

 ミュラは許されざる父親への思慕の念に身を焦がし、苦しみ悶えた。この煩悶から逃れられるならばいっそ、と自ら生命を絶とうとすらしたのである。

 幸いというべきか、自殺は偶然に部屋を訪れた乳母に止められた。泣き崩れるミュラは乳母に父への想いをうち明けた。乳母はミュラを哀れに思い、夜になるのを待って、ミュラの顔をヴェールで隠すとテイアースの部屋へと連れて行ったのである。

 ミュラは顔を隠したまま、テイアースと12夜をともにした。が、12夜目、燭台を手にしたテイアースは、自分が実娘と臥所をともにしていたことをとうとう知ってしまった。怒り狂った王はミュラを殺そうとしたが、ミュラは逃げおおせ、9ヵ月の間さまざまな国をさまよった。しかしミュラはテイアースの胤(たね)を宿しており、身重の身体で旅をすることは段々、かなわなくなっていった。

 やがてアラビアの南、サバの地で力尽きた彼女は、自分の犯した罪の償いとして、生と死の狭間に姿を変えることを願った。神々は彼女の願いを聞き入れ、ミュラを没薬(ミルラ。ユリ科の植物)の木へと変えたのである。

 さて、この木から生まれてきたテイアースとミュラの子こそ、世にたぐい希なる美少年アドニスだった。

 赤子にして輝くばかりの美しさに、夢中になったのがアフロディーテだった。アフロディーテアドニスをほかの誰にも見せないために箱に入れ、冥界の王ハデスの妻ぺルセポネー(おとめ座を参照)に「決して中を見てはいけない」と言って預けた。

 ペルセポネーは了承したものの、やがて好奇心を抑えきれなくなり、つい箱の中を見てしまった。そしてまた彼女もアドニスの美しさに魅了されてしまったのだ。

 アフロディーテとペルセポネーはアドニスを奪い合い、醜い争いをはじめた。

 争いを見かねた大神ゼウスは仲裁に入り、アドニスに1年の3分の1をアフロディーテ、3分の1をペルセポネーのもとで、残る3分の1はどちらか好きなほうで暮らすように申し渡した。

 アドニスは自分が選んでもいいといわれた3分の1を、アフロディーテのもとで暮らすことに決めた。

 アフロディーテはともに暮らす間、アドニスをいつくしみ可愛がったが、さすがに美の女神のこと、アドニスの好む狩りに同行することだけはしなかった。代わりに何度も獣の牙や角に気をつけるように注意したのだが、血気にはやる少年はその注意を忘れてしまうことも多く、ついにあるとき、狩りの最中に大猪の角で腿を突かれ、死んでしまったのである。

 アフロディーテは深く悲しみ、アドニスの美しさを永久に伝えようと神々の酒ネクタルをアドニスの流した血に濡れる大地にこぼした。

 すると、そこから1本の美しい、真紅の花弁をもつ花が咲き出てきた。このアドニスの血から生まれたのがアネモネの花である。だが、この花は美しいかわりに寿命もまた短く、アネモス(風)につれてたちまち花弁が散っていく。アドニスの生涯そのもののような拶げな花なのである。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

オオカミ座とさいだん座

 オオカミ座とさいだん座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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オオカミ座

■よく見える季節:7月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:7月3日


さいだん座

■よく見える季節:8月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:8月5日

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 オオカミ座とさいだん座、この2つの名を知っている人はかなりの星座通ですね。

 

 オオカミ座はケンタウルス座のすぐ東にある、小さな星が集まってできた星座です。星座としての大きさは中くらいで、形はやや竿立ちになった細身の4足動物を横から見たところ、という感じです。

 ギリシアでは古くから知られていた星座であり、当時は単に「セリオン(野獣)」と呼ばれていました。星図では、オオカミ座はケンタウルス座につかまれていたり、あるいはケンタウルス座の持つ槍に貫かれている姿で描かれることもあります。このことからオオカミ座はケンタウルス座の一部と見られたり、あるいはケンタウロスが神々に捧げる供物の鋤物として見られ、「ホスティア(犠牲)」「ヴィクティマ・ケンタウリ(ケンタウロスの犠牲)」という名で呼ぱれることもありました。

 オオカミ座は地平線ぎりぎりにあるため、東京からもっとも見やすい7月ごろでも星座の下3分の1は地平線下に沈んでしまいます。資料によっては南天の星座とするものもあります。

 オオカミ座は神話では、フランスの天文学者R.H.アレンの説によるとアルカディア王リュカオーンの姿だとされています。

 

 さいだん座はさそり座の南、オオカミ座の東にある小さな星座でする。形は少しゆがんだ菱形と台形がくっついていて、星図では供物を燃やす炎を戴いた祭壇の姿で描かれています。

 さいだん座はオオカミ座よりさらに南にあり、しかも明るい星はまったくないので見つけるのは難しいです。ですがギリシアでは古くから知られていた星座で、紀元前2~3世紀の詩人アラトスが天文詩『ファイノメイナ(星空)』の中で「犠牲を捧げるもの」としてふれています。中世から近世にかけては「トウリブルム(香炉)」とも呼ばれました。


 神話では、さいだん座はバベルの塔の頂上に建つ神殿の祭壇をあらわしたもの、あるいはケンタウロスが捕らえた獲物である狼を生け賛に捧げる祭壇、さらにまたはリュカオーンの一族が大神ゼウスに供物を捧げるために、リュカイオス山に作った祭壇という説があります。

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★オオカミ人間の一族
 アルカディア地方にリュカオーンという王がいた。リュカオーンは数多くの女性たちとの間に50人の息子と1人の娘をもうけたが、50人の息子たちは皆、高慢で意地が悪く、アルカディアの民を苦しめていた。

 その悪評を耳にしたゼウスは、彼らがどれほどの悪人かを試すため、旅人の姿に化けてリュカオーンの宮殿を訪れた。

 するとリュカオーンの息子たちは、リュカオーンの孫のアルカス(小ぐま座)を殺し、その臓器を抜き取って、それを料理に混ぜてゼウスをもてなしたのである。

 このあまりに非道な行いに激怒したゼウスは正体を現し、驚いて逃げまどうリュカオーンの息子たちを、もっとも幼かったニュクティモスを除きすべて雷を投げつけて殺してしまった。


 ゼウスはリュカオーンを捕らえ、この行いの共犯者として罰を与えた。リュカオーンの姿をその残虐で非道な性質にふさわしい生き物、つまりオオカミに変えてしまっかりである。

 のちにこのオオカミが天に昇ってオオカミ座になったのだといわれる。

 なお、このとき死んだはずのアルカスはゼウスによってよみがえった。

 ごのの事件以後、リュカオーンの一族は深く神を敬うようになり、リュカイオス山にゼウスのための祭壇(ゼウス・リュカイオス)が作られた。アルカディアの民はここで生け賛となる人間を殺し、その肉を食らった者はオオカミになってしまうのだという(8年間、1回も人間の肉を□にしなけれぱ9年目に人間に戻れる)。

 この祭壇は実際に存在しており、さらに古代においては人身御供を捧げる習慣も本当にあったようだ。あるいはそこで行われていた野蛮な祭祀から、リュカオーンの伝伝説が生まれてきたのかもしれない。

 もうひとつ余談であるが、リュカオーンのたった1人の娘とは、月の処女神アルテミス(あるいは女神ヘーラー)の不興を買って大ぐま座となったカリストーである。また、さらにその末裔にあたるアタランテはアフロディテーによってライオンに変えられている。

 どうもリュカオーンの一族は、獣に変化させられる運命にあるようだ。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」