みなみのうお座

みなみのうお座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~

■よく見える季節:10月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:10月17日
~~~~~~~~~~

みなみのうお座は秋、南の空に見られる星座です。
みなみのうお座という名前は、黄道12星座のうお座に対して南よりの空にあることから名付けられました。さほど大きな星座ではありませんが、中心に1等星フォーマルハウトがあり、さらにみなみのうお座の周囲には明るい星がないことから、ひときわ目立つ星座です。

星座の形は、弦側を下方にやや反った半月型をしており、水面から飛び跳ねる魚の姿をうまくあらわしています。星図でも同様に、仰向けになった魚の姿で描かれています。


 みなみのうお座のα星フォーマルハウ卜の名は、アラビア語の「フム・アル・フート(・アル・ゲヌビ)」 (「南の」魚のロ)からきていて、水がめ座の持つ瓶からこぼれ落ちる水を、仰向けになったみなみのうお座がこのロで受け止めています。アラビアでは「第1のかわず「ダチョウ」、また周辺に星がなく、ぽつねんとした印象を受けることから「寂しきもの」とよびました。

 紀元前2000年ごろのペルシアでは、フォーマルハウト、アルデパラン(おうし座)、レクルス(しし座)、アンタレス(さそり座)の4つの星をそれぞれ東西南北の四方を守る「王の星」と見、フォーマルハウトを「ハストラング(北)」と呼んでいました。

神話では、南魚座は美の女神アフロディテーが怪物テュフォンに追われたとき、ナイル川に逃れて変身したものだといわれています(やぎ座を参照)。

 また、うお座の親戚だともいわれていますが、これはうお座が同じくテュフォンに追われて変身したアフロディテーの息子エロースであることとも関係があるのでしょう。


神話では、アフロディテーについて伝わるを紹介しましょう。

~~~~~~~~~~

アネモネの花
 キュプロス島の王、テイアースにミュラ(もしくはスミュルナ)という娘がいた。

 あるとき、ミュラは美の女神アフロディーテヘの祭祀をおこたったため、女神の怒りを買って、実の父親であるテイアースに恋心を抱く呪いを受けてしまった。

 ミュラは許されざる父親への思慕の念に身を焦がし、苦しみ悶えた。この煩悶から逃れられるならばいっそ、と自ら生命を絶とうとすらしたのである。

 幸いというべきか、自殺は偶然に部屋を訪れた乳母に止められた。泣き崩れるミュラは乳母に父への想いをうち明けた。乳母はミュラを哀れに思い、夜になるのを待って、ミュラの顔をヴェールで隠すとテイアースの部屋へと連れて行ったのである。

 ミュラは顔を隠したまま、テイアースと12夜をともにした。が、12夜目、燭台を手にしたテイアースは、自分が実娘と臥所をともにしていたことをとうとう知ってしまった。怒り狂った王はミュラを殺そうとしたが、ミュラは逃げおおせ、9ヵ月の間さまざまな国をさまよった。しかしミュラはテイアースの胤(たね)を宿しており、身重の身体で旅をすることは段々、かなわなくなっていった。

 やがてアラビアの南、サバの地で力尽きた彼女は、自分の犯した罪の償いとして、生と死の狭間に姿を変えることを願った。神々は彼女の願いを聞き入れ、ミュラを没薬(ミルラ。ユリ科の植物)の木へと変えたのである。

 さて、この木から生まれてきたテイアースとミュラの子こそ、世にたぐい希なる美少年アドニスだった。

 赤子にして輝くばかりの美しさに、夢中になったのがアフロディーテだった。アフロディーテアドニスをほかの誰にも見せないために箱に入れ、冥界の王ハデスの妻ぺルセポネー(おとめ座を参照)に「決して中を見てはいけない」と言って預けた。

 ペルセポネーは了承したものの、やがて好奇心を抑えきれなくなり、つい箱の中を見てしまった。そしてまた彼女もアドニスの美しさに魅了されてしまったのだ。

 アフロディーテとペルセポネーはアドニスを奪い合い、醜い争いをはじめた。

 争いを見かねた大神ゼウスは仲裁に入り、アドニスに1年の3分の1をアフロディーテ、3分の1をペルセポネーのもとで、残る3分の1はどちらか好きなほうで暮らすように申し渡した。

 アドニスは自分が選んでもいいといわれた3分の1を、アフロディーテのもとで暮らすことに決めた。

 アフロディーテはともに暮らす間、アドニスをいつくしみ可愛がったが、さすがに美の女神のこと、アドニスの好む狩りに同行することだけはしなかった。代わりに何度も獣の牙や角に気をつけるように注意したのだが、血気にはやる少年はその注意を忘れてしまうことも多く、ついにあるとき、狩りの最中に大猪の角で腿を突かれ、死んでしまったのである。

 アフロディーテは深く悲しみ、アドニスの美しさを永久に伝えようと神々の酒ネクタルをアドニスの流した血に濡れる大地にこぼした。

 すると、そこから1本の美しい、真紅の花弁をもつ花が咲き出てきた。このアドニスの血から生まれたのがアネモネの花である。だが、この花は美しいかわりに寿命もまた短く、アネモス(風)につれてたちまち花弁が散っていく。アドニスの生涯そのもののような拶げな花なのである。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」