おひつじ座 神話

 

おひつじ座に関する神話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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★ゼウスの遭わした金毛の羊
 ギリシア中部、ボイオーティア地方を統治していたアタマース王は、イーノーという女性を後妻に迎えた。
イーノーは、アタマースの前妻である雲の精ネペレーと王の間に生まれた2人の兄妹、プリクソスとヘレーを引き取って育てていたが、やがて自分にも子どもができると、血のつながっていない2人を邪魔に思うようになっていった。
 イーノーの悪感情は日増しに強まっていき、ついにある年、彼女は2人(プリクソスとヘレー)を殺してしまおうと決意した。
 秋、種蒔きの時期がやってきたとき、イーノーは女たちに命じ、男たちに隠れて小麦の種籾を火で焙っておかせた。
なにも知らない男たちは、その種籾を畑に蒔き世話をしたが、当然のことながら春になっても小麦の芽の出が思わしくない。
 不作を知ったアタマースは、解決策を求めてデルフォイアポローン神殿の神託を受けるべく使者を送った。だが、イーノーは女たちに続きこの使者までも龍絡し、「前妻の残した2人の子ども、プリクソスとヘレー(一説にはプリクソスだけ)を大神ゼウスヘの生け贄として供すれば、凶作がやむだろう」という偽の託宣を王に伝え、さらに民の間にふれて回ってしまったのだ。
 自分の子どもの命を犠牲にするなど、王の望むところではない。しかし、その偽の神託は、すでにすべての人の知るところであった。
 民衆はお告げに従うように王に迫った。王は仕方なく、プリクソスとヘレーを生け贄にすることに同意してしまった。かくして、イーノーの思惑どおり、プリクソスと、ヘレーはゼウスの祭壇に引き立てられていったのである。
 ところが、プリクソスとヘレニが儀式で無惨な最期を迎えようとしたそのとき、2人の身体は突如現れた雲霧(うんむ)に包まれた。
霧が晴れたとき、2人の姿は祭壇の上から消えていたのである。
 この奇跡を成し得たのは、2人の産みの母親である雲の精ネペレーであった。
 自分の子どもの危機を知ったネペレーは、大神ゼウスに2人の助命を嘆願し、使者である伝令神ヘルメスを通して、天駆ける金毛の羊を受け取っていたのだ。
 ネペレーは自らの力を使って2人を雲霧の中に隠し天空へ引き上げると、金毛の羊の背にまたがらせ、はるか遠く北方にあるコルキスの地へと運び去った。
 このとき、妹のヘレーは眼下に広がる青い海原に眩暈(めまい)を起こし、羊の背から波間ヘと落下してしまった。
以降、ヘレーの落ちたこの場所をヘレスポントス(現在のダルダネス海峡あたり)と呼ぶようになったという。
この逸話や、2人の母親が雲の精であったことなどから、牡羊座の神話は黒海周辺の起源の古い民間伝承が、ギリシア人によって自分たちの神話の中に取り込まれたものと想像される。
 ともあれ、命が助かったことを喜んだプリクソスは、自分を助けてくれた金毛の羊を感謝のしるしとしてゼウスの祭壇に捧げ、その金色の皮をコルキスの王アイエーテースに献上した。
 ゼウスは捧げられた羊をその功から天に昇げ、牡羊座が誕生したのである。

★アルゴ号探検隊が目指した宝物
 金毛の羊は星座として天に昇ったが、かの羊にまつわる神話はこれだけでは終わらない。
ギリシア神話中でも、もっとも有名な冒険譚に「アルゴナウティカ」、アルゴ号探検隊と呼ばれるものがある。
 イオールコスという都市国家の王子にイアーソーンという若者がいた。
 イアーソーンは父王アイソーンが叔父のペリアースに王権を奪われたことで身の危険を感じ、半人半馬の姿をしたケンタウロス族の賢者ケイローンのもとへ身を潜めていた。
イアーソーンはケイローンによって育てられ、さまざまな学問を彼から教わった。
 イアーソーンが成人すると、彼は自らの王権を取り戻すため、イオールコスヘと向かった。
 イアーソーンは片方のサンダルだけを履いた格好でペリアースのもとに現れた。
道中、老婆に姿を変えた女神ヘーラーをおぶって川を渡ったときに、一方のサンダルが脱げてどこかに流れてしまったのだった。
 ペリアースはイアーソーンの姿を見て恐れおののいた。
以前に「サンダルを片方しか履いていない者に注意しろ」という神託を受けていたのだ。ベリアースはなんとか彼を排除しようと考えた。
 歓迎の宴の中、ペリアースはイアーソーンに、
  「もしおまえが王になったとき、市民の中に自分の命を脅かす者がいるという神託を受けたとしたら、おまえならどうする?」
 という質問をすると、イアーソーンは、こう答えた。
  「コルキス王アイエーテースが眠らない毒竜に守らせているという黄金の羊毛を持参させたらよかろう」

そう、この黄金の羊毛こそが、プリクソスを助け、牡羊座となったあの羊のものだったのである。
黄金の羊毛はこのような冒険の種となるほど、入手困難な価値の高い財宝として扱われていたのだ。
イアーソーンの答えを受け、ペリアースはそっくりそのままの内容の命令を彼に下して、イアーソーンはギリシア神話史上最大の冒険へと踏み出すことになるのである。

(アルゴ号探検隊の神話に関しては、アルゴ号座を参照)

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」