やぎ座 神話

 

やぎ座に関する神話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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★牧神パーンの変化
 牧神パーンは伝令神ヘルメスの息子で(母親ははっきりしない)、生まれたときから山羊の角と足をもち、顔にも山羊のようなヒゲが生えていた。

 

 パーンはいつも陽気に笑い、シュリンクス(笙(しょう)、葦(あし)で作った笛)を吹いては山野を駆けめぐる、いたってのん気な神であった。だがパーンは熱情・狂気ををつかさどり、人々に原因不明の恐慌を与える力をもっていた(「パ二ック」の語源である)。

 

 あるとき、神々はナイル川のほとりに集まって宴会を開いていた。宴会好きのパーンももちろん参加しており、シュリンクスを吹き鳴らしたり、踊ったりしては場を盛りあげていた。

 

 ところがそのとき、怪物テュフォンが現れた。テュフォンはかつて大神ゼウスに逆らったティタン神族の生き残りで、恐ろしい力をもつ怪物である。この突然の出来事に、神々はちりぢりに逃げ出した。

 

 美の女神アフロディテーとその息子エロースは川へ飛び込み、姿を魚に変えて逃げた(魚座、南魚座参照)。パーンも川へ飛び込んだが、あわてて化けたために上半身
は山羊、下半身は魚の姿になってしまった。

 

 その姿で川を泳ぐ様子があまりにおかしかったので、ゼウスが記念としてその姿を天に残したという。これが山羊座となったのである。

 


★愉快な神パーン
 バーンにはほかにも、いろいろとおもしろい伝説がある。この愉快な神がどのような騒ぎを起こしたのか、少し話してみよう。


 パーンは常にシュリンクスを手にした姿で描かれているが、実はこれにもいわくがある。


 シュリンクスとはもともと、アルカディア地方で月の処女神アルテミスに従うニンフ(精霊)の1人だった。彼女は内気で生真面目な性格であったため、軽薄な神々や半神たちに言い寄られるのを好まなかった。


 ところがある日、シュリンクスがゼウスとパーンの祠があるリュカイオスの山に狩りに出かけた帰り道、彼女はパーンにばったり出くわしてしまった。


 パーンは以前からシュリンクスに想いを寄せており、これを好機と見てシュリンクスに告白しようと彼女を追いかけはじめた。


 シュリンクスは飛ぶように逃げたが、パーンも走ることでは負けてはいない。2人は野山を抜けて走り続けた。


 だが、やがてシュリンクスは行く手を川に遮られてしまった。後ろから迫るパーンに恐れをなしたシュリンクスはままよとばかり(=なされるがまま)に川に飛び込み、姉妹である川のニンフたちに「どうか私の姿を変えて、あの者から私を守ってください」と祈った。


 パーンはシュリンクスを追い、すぐさま川に飛び込んだ。そしてシュリンクスの姿を水の中に認めるや、泳いでいって抱きしめたが、その腕に抱いていたのはニンフの身体ではなく川に生える葦の束だった。シュリンクスは葦に姿を変えてしまったのである。


 パーンは失望してしばらくその葦を握りしめたままだったが、やがてふと思いついてその葦の茎を折り、蝋(ろう)で張り合わせて笛を作った。


 その笛から出る調べは美しく、パーンの心は慰められた。パーンは笛にシュリンクスの名を与え、以降常に携えて歩いたという。


 またもうひとつ、木霊エコーの物語がある。


 エコーは森のニンフの1人で、器量が良く、歌がとてもうまかった。


 パーンはしきりに彼女に言い寄ったが、エコーはいつもつれない返事をしていた。


 やがてパーンも腹を立てはじめた。もともと彼女が歌を上手なのを嫉妬していたこともあり、手ひどい仕返しをしようとたくらんだ。


 パーンは自分を信仰する羊飼いたちに術をかけて気を狂わせ、エコーを捕まえさせてばらばらに引き裂き、あちこちにばらまいてしまったのだ。


 だが、大地は森のニンフたちと同盟関係にあったので、彼女の身体の破片をその懐に隠してやった。そしてパーンがシュリンクスを吹くと、エコーはその音色を真似して木霊を返したのである。それを聞くたび、パーンは飛び上がって誰が白分にいたずらをしているのか、おびえて狂ったように探し回ったという。


 そしてこれがこだま、やまびこの生まれた理由であるとされている。

 

★ロバの耳
 ブリュギアの王ミダースは、あるとき自分の庭圈に約れ込んできたシーレーノス(馬の耳と尾と蹄をもつ神性の生物)を手厚くもてなしたことがあった。


 シーレーノスは酒神バッカスの育ての親といわれており、この話を聞いたバッカスはシーレーノスの受けた恩に報いるためにミダースの願いをなんでも1つ叶えてやることにした。


 ミダースは悪人ではなかったがいささか金銭欲が強かったので、「私のさわるものがすべて黄金になるようにしてください」と言った。バッカスは快くその願いを叶えてやった。


 ミーダスは大喜びで、さまぎまなものにふれては黄金に変えていったが、やがて空腹を覚え、召使いに食事を持ってこさせた。が、パンにミダースの手がふれた途端、それは黄金の塊へと変わり、肉はつかんだ途端、黄金の板へと変わっていた。酒杯を取れば酒は黄金の滴に変わり、飲むことすらかなわなかった。


 ここに至ってミダースは自分の過ちに気付き、パッカスに白分の愚かさを述べ、元に戻してくれるように頼んだのである。


 さて元には戻ったものの、ミダースはもはや富にほとほと嫌気がさしていた。ミダースは山野で素朴な生活を営むようになり、牧神パーンをあがめて暮らしていた。


 そんなあるとき、パーンは自分のシュリンクスの腕前が太陽神アポローンより上であると自慢してしまった。これを聞いたアポローンは大いに立腹し、トモーロス山神の立ち合いのもと、パーンと音楽の腕比べをすることになった。


 まずパーンがシュリンクスを奏で、続いてアポローンが宝石をちりぱめた竪琴を奏でた。すると山の樹々はすべてアポローンヘとたなぴき、トモーロスはアポローンの勝ちを宣言した。


 しかし、パーンに傾倒していたミダースは、ただ1人これに異議を唱えた。アポローンはこの不遜な抗議に怒り、ミダースに「素晴らしい楽曲を聞き分ける耳を与えてやろう」とその耳を伸ぱし、ロパの耳に作り替えてしまったのである。


 この後、ミダースは常に王冠と布で耳を隠して暮らしていたが、1人の理髪師によってその耳がロバであることをばらされてしまう。いうまでもなく、この話が「王様の耳はロバの耳」のおとぎ話の原形となったのである。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」