おおぐま座 こぐま座

おおぐま座 こぐま座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~

おおぐま座

■よく見える季節:春。5月ごろ
■20時南中の時期:5月3日

 

こぐま座
■よく見える季節:春。通年
■20時南中の時期:7月13日
~~~~~~~~~~~~~~~~~

 北の空に浮かぶ大熊座は、代表的な春の星座です。


 星座としてはその名の示すとおり大きなほうで、星の並びは4つ足でのっそり歩く、尻尾の長い熊の姿をうまく描いています。


 少しでも星空に興味がある人ならば北斗七星をご存じの方も多いでしょう。このおおぐま座の背中から尻尾にあたる部分が北斗七星にあたります。おおぐま座全体からすると、北斗七星の受け皿の部分が、ちょうど熊の背につけられた鞍のように見えます。


 おおぐま座が現在のような形になったのは古代ギリシアですが、不思議なことにほかの地方でもこの星座、もしくは北斗七星を熊として見ているところが多いのです。

 

 インドでもこの星座を熊として見ていたといい、またアイヌの伝説にも神に逆らって殺された熊が北斗七星になったという伝説があります。さらに近世になってアメリカ大陸が発見されたころ、その土地のネイティブ・アメリカンまでもが「あの星々は熊だ」と北斗七星を指して言ったそうです。古代ギリシアはもちろん、それまでアジア・ヨーロッパとかかわりをもたなかった彼らが同じようにこの星座や北斗七星を熊として見ていたことは、なにか神秘的なつながりを感じさせますね。


 また、北斗七星は「車」と呼ばれることも多いです。これは形が馬車・人力車に似ていること、北極星の周りをぐるぐると回っていることの2つに由来するようです。古代バビロニアでは「マルギッダ・サンプ(大きい車)」、スカンディナビアでは「大神オーディンの車」「雷神トールの車」、中国では「帝車」、イギリスでは「アーサー王の車」「チャールズ王の車」といわれたこともあります。またギリシアの詩人ホメロスは「車とも呼ばれる熊」と記しているので、おそらくギリシアでも熊と車、2つの見方があったと思われます。


 日本ではさまざまな呼び名があり、「北斗さま」「七曜の星」「四三の星(“しそぼし”ともいう)」「舵星」などが代表的です。

 

 蛇足ながらつけ加えておくと、北斗七星の受け皿の端、α星ドゥベー(大熊)とβベータ星メラク(腰)を結んだ線をそのまま5倍すると北極星にたどりつきます。

 

 古来より北極星を見つけるために用いられてきた方法ですが、日本では冬の一時期、北斗七星が地平線下に沈んでしまいます。このときは北極星をはさんでほぼ真反対にあるカシオペア座から北極星の位置を見つけるのですが、カシオベア座は日本では「錨星」と呼ばれており、舵と錨が対照的に存在しているのはなんともおもしろいですね。

 

 

 こぐま座北極星を含む、おおぐま座とともにかなり有名な星座です。


 形は北斗七星をそっくりそのまま小さくしたように、7つの星が柄杓の形に並んでいます。そのため小熊座を北斗七星に対して「小北斗」、または「小柄杓」と呼ぶこともあります。古代バビロニアでは北斗七星に対し、「マルギッダ・アンナ(小さい車)」の名で呼んでいました。


 柄杓の柄のいちばん端が北極星の2等星ポラリスで、古来より方角を知るための重要な星でした。現在では歳差運動により真北からは1度弱ずれており、次にもっとも真北に近づくのは西暦2102年と予測されています。


 日本では北極星を指して「北辰」「妙見」と呼ぶことがあります。これはどちらも日蓮宗および真言宗の妙見信仰に基づくものです。妙見(妙見菩薩)とは北極星の菩薩で人々を災害から守る役目をもっているとされています。

 

 また、別の一般的な名として「子(ね)の星」とも言います。これは十二支でいうと子は北の方角にあたるからです。

 

 ギリシア神話ではおおぐま座は月の処女神アルテミスの侍女、カリストーの変化した熊とされていて、こぐま座カリストーと大神ゼウスの間にできた息子アルカスの変化した熊の姿といわれていまする。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 夜空をくるくると回り続けるこの2つの星座には、とても悲しい神話がある。

★悲劇の親子
 月の処女神アルテミスの侍女の中に、カリストーという娘かいた。


 カリストーは化粧もせず、野山で走り回って狩りをするのが好きだったが、快活で鹿のように美しかった。


 ある日、カリストーを見初めたゼウスはアルテミスそっくりに姿を変え、カリストーに近づき、力づくで捕らえた。


 ゼウスは欲望を満たすと、涙に濡れるカリストーを置いて1人帰ってしまった。


 やがてカリストーは身ごもり、時満ちて息子アルカスを生んだ。


 ところが、アルテミスは処女の神であったので、自らの侍女の中に処女でない者がいたことを知って激怒し、カリストーに呪いをかけて、1頭の熊に姿を変えてしまった(あるいはゼウスの妻ヘーラーが嫉妬してカリストーを熊に変えた、という説もある)。


 醜い熊の姿になってしまったカリストーは、アルテミスのそばを離れ、赤子のアルカスを置いて森の奥へと姿を消してしまった。


 それから幾年月がたち、アルカスはすくすくと育っていった。やがて少年へと成長するころには、アルカスは一人前の立派な狩人となっていた。


 さてアルカスが獲物を求めて森を歩いていたときのこと。熊として森の奥で暮らしていたカリストーは偶然、茂みの向こうからやってくるアルカスを見つけてしまった。


 カリストーにはその狩人が自分の息子だとすぐにわかった。熊になってしまったとはいえ、カリストーは息子のことを忘れたことはなかったのだ。息子に出会えた嬉しさに、カリストーはつい我を忘れて茂みを飛び出してしまった。


 ところが、アルカスには茂みから突然飛び出してきた熊が白分の母などとはわかりようがない。アルカスはあわてて持っていた弓に矢をつがえ、熊の心臓に狙いを定めて弓を引き絞った。


 矢が放たれようとする瞬間、この一部始終を天上界から見ていたゼウスは、アルカスに母殺しの罪を犯させるわけにはいかないとつむじ風を起こし、2人を天に巻き上げた。そしてアルカスを小熊に変え、カリストーともども天上の星とした。


 こうしてカリストーは大熊座に、アルカスは小熊座になったのである。


 だが、夫の浮気を常に腹立たしく思っていたヘーラーは、河神オケアノスと海の老神ネーレウスの娘、テティスのもとへと赴き、2人に頼んでカリストーとアルカスがほかの星々のように日に1度、海の中に入って休むことができないようにしてしまった。このため、大熊座と小熊座は1年中、休むことなく北の空を回り続けることになってしまったのだという。


 これはギリシア・ローマ地方では北斗七星は地平線下に沈まないことから生まれた逸話であるといわれている。


 なお、木星はゼウスのローマ名であるジュピターの名が与えられているが、木星の第4衛星の名がカリストーというのはこの神話によるものである。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

へびつかい座 神話

へびつかい座に関する神話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~ 

★希代の天才医師
 太陽神アポローンテッサリアの王女コローニスが恋に落ち、夫婦となった。
 アポローンはコローニスに自分の使いである、人語を話す白銀のカラスを与えた。
このカラスは天上界と人間界を行き来しては、アポローンにコローニスの様子を伝えていた。


 ところがある日、カラスはたまたまコローニスが1人の男性と親しげに話しているのを目撃してしまった。カラスはあわててアポローンのもとに飛んで帰り、「コローニスが浮気をしていますよ」とアポローンに告げた(道草を食っていて遅くなったた、め、嘘をついたという説もある)。


 アポローンは怒り、矢を放ってコローニスを殺してしまったのであるが、それがカラスの勘ちがいであり、しかもコローニスが自分の子を宿していると知って激しく後悔した(からす座を参照)。


 アポローンはコローニスの亡骸から赤子を取り上げ、アスクレーピオスと名付けた。
 アポローンはアスクレーピオスをケンタウロス族の賢者ケイローン(いて座)に預 アスクレーピオスはそこですくすくと育った。


 アスクレーピオスは頭が良く、さまざまな学問をケイローンから学んだが、その中でもとくに熱心に学んだのは医術だったにれはアスクレーピオスの父親、アポローンが医術の神であることとも関係しているのかもしれない)。


 アスベクレーピオスはケイローンからさまざまな医術の神舶を教わり、やがて彼の右に出る者はいないほどの名医となった。


 アスクレーピオスはその後、アルゴ号探検隊(アルゴ号座を参照)にも参加するなど英雄の1人として活躍していたが、彼のとどまるところを知らぬ才能はついに神々の禁を破ってしまった。アテナイテセウスの息子、ヒッポリュトスを死からよみがえらせてしまったのである。

 

 この自然の理を覆す行為に冥界の王ハデスは激怒し、人神ゼウスに訴えた。このまま人が死よりよみがえってしまっては、地上は人であふれかえり、冥界は寂れきってしまうだろうと。


 ゼウスはその訴えを受け、アスクレーピオスを雷光でもって撃ち殺した。


 この事件で怒り狂ったのがアポローンだった。アポローンは雷光を作ったキュクロブスたち(鍛冶の神ヘパイストスの弟子)を皆殺しにしてしまった。


 その後、アスクレーピオスの罪は許され、天に昇って星となった。これがへびつかい座となったのである。


 アスクレーピオスは死後、医薬の神としてあがめられた。コリントスの南、コローヒスがアスクレーピオスを生んだとされている地エピダウロスにはアスクレーピオスを祀る大神殿が建てられた。ここでは簡単な治療ができる医療院や患者を泊めるための宿泊施設が数多く集まっていたという。


 神殿ではアスクレーピオスの象徴である蛇が養われていたが、それらの性格はごくおとなしく、人に危害を加えることはなかったという。とくに薄茶色の蛇はアスクレービオスの使いといわれ、神聖視されていた。


 なお、アスクレーピオスの2人の息子、マカーオーンとポダレイリオスもまた優れた医者となり、トロイア戦争でともにギリシア軍の軍医として活躍している。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

うお座 神話

うお座に関する神話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~ 

★魚となったエロース
 あるとき、神々はナイル川のほとりに集まって宴会を開いた。名のある神も無名の神もともに集まり、ニンフたちとともに踊っては楽しいひとときを過ごしていた。


 ところがそのとき、宴会の騒ぎを聞きつけて、怪物テュフォンが現れた。テュフォンはかつて大神ゼウスの率いるオリュンポスの神々と戦ったティタン神族の生き残りで、恐ろしい力をもつ怪物である。


 この突然の閲人(らんにゅう)者に、神々は驚いてちりぢりに逃げ出した。


 美の女神アフロディテーとその息子エロースはナイル川へ飛び込んだ。だがテュフォンから素早く逃げるためには姿を魚に変えなくてはならなかった。そしてお互いにはぐれないように紐でつないだ。この魚の姿が天に昇り、魚座になったという。


 なお、このとき宴会に参加していた牧神パーンも川へ飛び込んで魚へと化けようとしたが、、あわてていたために上半身は山羊、下半身は魚というなんとも滑稽な姿になってしまった。これがあまりにおかしかったため、ゼウスが記念して山羊座にした

 


★恋するエロース
 ある国に3人の王女がおり、その末娘プシュケーはとびきり美しいと評判であった。
 ブシュケーの評判が美の女神アフロディテーをしのぐほどになると、アフロディテーは嫉妬に怒り、エロースに「プシュケーが世界でいちばん下賤な男に恋する」よう命じた。


 ところが、エロースが恋の黄金の矢でプシュケーを射ようとしたとき、過って鏃(やじり)で自分の親指を傷つけてしまい、エロース自身がプシュケーに激しく恋するようになってしまったのである。


 一方プシュケーは、美しすぎるためにかえって誰も婿のなり手がなかった。

 

 そこで神託を伺うと、「花嫁衣装を着せて山の頂に置け。神々ですら恐れる者が婿になろう」という答えが返ってきた。プシュケーの家族は悲嘆に暮れたものの、神託に逆らうことはできず、言われたとおりにプシュケーに花嫁衣装を着せて、山の頂に独り置ぎ残した。


 プシュケーは恐ろしさに泣いたが、やがて夜になり、プシュケーは泣き疲れて眠ってしまった。


 目を覚ましたとき、プシュケーは自分が素晴らしく壮麗な宮殿にいるのを知った。


 宮殿の人の姿はまったくなかったが、必ず見えない誰かが給仕や案内など彼女の世話をした。


 夜になると真っ暗な寝室に男がやってきて、プシュケーにやさしく語りかけた。はじめは怯えていたプシュケーもやがて心を開き、男を愛するようになっていった。


 ただひとつ、男は「決して私の顔を見てはいけない」とプシュケーに言い聞かせていた。プシュケーはもはや男に断ちがたい愛情を抱いていたので、黙ってそれを受け入れた。


 そんなある日、プシュケーは2人の姉を宮殿に招待した。姉たちは宮殿を見るやその壮麗さに目を見張り、妹に激しく嫉妬した。


 だがブシュケーから夫の顔を一度も見たことがないと聞くと、姉たちはいぶかり、「その男は化け物にちがいない、いまにきっと取って食われてしまうから、男が眠っている隙に殺してしまえ」とプシュケーをそそのかした。


 プシュケーは話を聞いているうちに、姉の言うことが正しいと思いはじめた。


 その夜、プシュケーは男が眠るとベッドを抜け出し、燭台と短剣を手にそろそろと男こ近づいた。


 ところが燭台の光に照らされた男の顔は怪物などではなく、金色の髪をした美しい若者エロースだったのだ。気配に目を覚ましたエロースは、プシュケーが言い付けを破ったことに大いに立腹し、さんざんプシュケーをなじって天上へと去ってしまったのである。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

みすがめ座 神話

 

みすがめ座に関する神話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~ 

ギリシアの洪水伝説
 世界が青銅の時代(てんびん座を参照)を迎えていたころ、人々は悪徳に溺れ、互いに争っては殺し合いをしていた。それまで地上で暮らしていた神々は一部を除いて天上界へと去って行ってしまったので、地上はますます荒れ果てた。


 大神ゼウスは世界があまりに惨状を呈するのを見て、天災を起こして世界の人々をすべて滅ぼそうとした。


 さて、そんな荒れた世界にあって、プロメーテウスの息子デウカリオーンとその妻ピュラだけは心正しく、彼の領地であったテッサリアを節度をもって治め、神々を敬うことも忘れなかった。


 プロメーテウスはゼウスが世界を滅ばそうとしているのを知り、息子たるデウカリオーンとピュラだ出よ救いたいと考えた。そこでデウカリオーンに、「箱船を造ってその中に逃れよ」と神託を下した。


 デウカリオーンは言い付けに従って箱船を造り、妻とともに乗り込んだ。


 やがて天災が訪れた。ゼウスは雨を呼ぶ南風を遣わしておもうさま暴れさせ、低くたれ込めた雲を絞っては雪崩のような雨を降らせた。河の神たちにも命令を下すと、河はあふれ出し、洪水となって地上のすべてを押し流した。


 この供水は9日間続き、人類で生き残ったのは箱船に乗ったデウカリオーンとピュラだけであった。箱船はやがてパルナッソス山の頂にたどり着き、2人は無事を感謝してゼウスに供物を捧げた。


 しかし、世界で生き残った人間が白分たちだけだと知ると、どうやって再び人類を栄させればいいのか、デウカリオーンたちにはわからなかった。そこで2人は法の女神テミス(あるいはゼウスともいわれる)に祈り、どうしたらいいかを尋ねた。

 

 するとテミスは「頭を布で覆い隠し、大いなる母の骨を歩きながら後ろに投げよ」と神託を告げた。


 デヴカリオーンたちは母の骨を投げるなどという恐ろしい行為をせよ、という神託に騒然としたが、しぱらく考えた末、デウカリオーンは「法の女神がそのような不敬な行為をせよと言うはずがない。これは大地を大いなる母と見て、その骨とは大地を形作る岩のことであろう」と結論した。


 試しにそぱに落ちていた石を肩越しに放ると、その石は見る見るうちに柔らかくなって人間の姿へと変わっていった。2人は人類が再び栄えるであろう喜びに満たされ、多くの石を抱えて投げた。デウカリオーンの投げた石からは男が、ピュラの投げた石からは女が生まれ、こうして再び人類は増えていったのである。


 こののち、デウカリオーンは人類の第二の祖としての功績を神々に認められ、天に昇って水瓶座となったのだという。

 

 いうまでもなく、この伝説は旧約聖書ノアの箱船伝説に酷似した内容となっている。これはこの2つの伝説の間になんらかの関係があるか、もしくはもともとは1つだった伝説が広がっていくに連れて変化していったものではないかと考えられている。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

やぎ座 神話

 

やぎ座に関する神話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~ 

★牧神パーンの変化
 牧神パーンは伝令神ヘルメスの息子で(母親ははっきりしない)、生まれたときから山羊の角と足をもち、顔にも山羊のようなヒゲが生えていた。

 

 パーンはいつも陽気に笑い、シュリンクス(笙(しょう)、葦(あし)で作った笛)を吹いては山野を駆けめぐる、いたってのん気な神であった。だがパーンは熱情・狂気ををつかさどり、人々に原因不明の恐慌を与える力をもっていた(「パ二ック」の語源である)。

 

 あるとき、神々はナイル川のほとりに集まって宴会を開いていた。宴会好きのパーンももちろん参加しており、シュリンクスを吹き鳴らしたり、踊ったりしては場を盛りあげていた。

 

 ところがそのとき、怪物テュフォンが現れた。テュフォンはかつて大神ゼウスに逆らったティタン神族の生き残りで、恐ろしい力をもつ怪物である。この突然の出来事に、神々はちりぢりに逃げ出した。

 

 美の女神アフロディテーとその息子エロースは川へ飛び込み、姿を魚に変えて逃げた(魚座、南魚座参照)。パーンも川へ飛び込んだが、あわてて化けたために上半身
は山羊、下半身は魚の姿になってしまった。

 

 その姿で川を泳ぐ様子があまりにおかしかったので、ゼウスが記念としてその姿を天に残したという。これが山羊座となったのである。

 


★愉快な神パーン
 バーンにはほかにも、いろいろとおもしろい伝説がある。この愉快な神がどのような騒ぎを起こしたのか、少し話してみよう。


 パーンは常にシュリンクスを手にした姿で描かれているが、実はこれにもいわくがある。


 シュリンクスとはもともと、アルカディア地方で月の処女神アルテミスに従うニンフ(精霊)の1人だった。彼女は内気で生真面目な性格であったため、軽薄な神々や半神たちに言い寄られるのを好まなかった。


 ところがある日、シュリンクスがゼウスとパーンの祠があるリュカイオスの山に狩りに出かけた帰り道、彼女はパーンにばったり出くわしてしまった。


 パーンは以前からシュリンクスに想いを寄せており、これを好機と見てシュリンクスに告白しようと彼女を追いかけはじめた。


 シュリンクスは飛ぶように逃げたが、パーンも走ることでは負けてはいない。2人は野山を抜けて走り続けた。


 だが、やがてシュリンクスは行く手を川に遮られてしまった。後ろから迫るパーンに恐れをなしたシュリンクスはままよとばかり(=なされるがまま)に川に飛び込み、姉妹である川のニンフたちに「どうか私の姿を変えて、あの者から私を守ってください」と祈った。


 パーンはシュリンクスを追い、すぐさま川に飛び込んだ。そしてシュリンクスの姿を水の中に認めるや、泳いでいって抱きしめたが、その腕に抱いていたのはニンフの身体ではなく川に生える葦の束だった。シュリンクスは葦に姿を変えてしまったのである。


 パーンは失望してしばらくその葦を握りしめたままだったが、やがてふと思いついてその葦の茎を折り、蝋(ろう)で張り合わせて笛を作った。


 その笛から出る調べは美しく、パーンの心は慰められた。パーンは笛にシュリンクスの名を与え、以降常に携えて歩いたという。


 またもうひとつ、木霊エコーの物語がある。


 エコーは森のニンフの1人で、器量が良く、歌がとてもうまかった。


 パーンはしきりに彼女に言い寄ったが、エコーはいつもつれない返事をしていた。


 やがてパーンも腹を立てはじめた。もともと彼女が歌を上手なのを嫉妬していたこともあり、手ひどい仕返しをしようとたくらんだ。


 パーンは自分を信仰する羊飼いたちに術をかけて気を狂わせ、エコーを捕まえさせてばらばらに引き裂き、あちこちにばらまいてしまったのだ。


 だが、大地は森のニンフたちと同盟関係にあったので、彼女の身体の破片をその懐に隠してやった。そしてパーンがシュリンクスを吹くと、エコーはその音色を真似して木霊を返したのである。それを聞くたび、パーンは飛び上がって誰が白分にいたずらをしているのか、おびえて狂ったように探し回ったという。


 そしてこれがこだま、やまびこの生まれた理由であるとされている。

 

★ロバの耳
 ブリュギアの王ミダースは、あるとき自分の庭圈に約れ込んできたシーレーノス(馬の耳と尾と蹄をもつ神性の生物)を手厚くもてなしたことがあった。


 シーレーノスは酒神バッカスの育ての親といわれており、この話を聞いたバッカスはシーレーノスの受けた恩に報いるためにミダースの願いをなんでも1つ叶えてやることにした。


 ミダースは悪人ではなかったがいささか金銭欲が強かったので、「私のさわるものがすべて黄金になるようにしてください」と言った。バッカスは快くその願いを叶えてやった。


 ミーダスは大喜びで、さまぎまなものにふれては黄金に変えていったが、やがて空腹を覚え、召使いに食事を持ってこさせた。が、パンにミダースの手がふれた途端、それは黄金の塊へと変わり、肉はつかんだ途端、黄金の板へと変わっていた。酒杯を取れば酒は黄金の滴に変わり、飲むことすらかなわなかった。


 ここに至ってミダースは自分の過ちに気付き、パッカスに白分の愚かさを述べ、元に戻してくれるように頼んだのである。


 さて元には戻ったものの、ミダースはもはや富にほとほと嫌気がさしていた。ミダースは山野で素朴な生活を営むようになり、牧神パーンをあがめて暮らしていた。


 そんなあるとき、パーンは自分のシュリンクスの腕前が太陽神アポローンより上であると自慢してしまった。これを聞いたアポローンは大いに立腹し、トモーロス山神の立ち合いのもと、パーンと音楽の腕比べをすることになった。


 まずパーンがシュリンクスを奏で、続いてアポローンが宝石をちりぱめた竪琴を奏でた。すると山の樹々はすべてアポローンヘとたなぴき、トモーロスはアポローンの勝ちを宣言した。


 しかし、パーンに傾倒していたミダースは、ただ1人これに異議を唱えた。アポローンはこの不遜な抗議に怒り、ミダースに「素晴らしい楽曲を聞き分ける耳を与えてやろう」とその耳を伸ぱし、ロパの耳に作り替えてしまったのである。


 この後、ミダースは常に王冠と布で耳を隠して暮らしていたが、1人の理髪師によってその耳がロバであることをばらされてしまう。いうまでもなく、この話が「王様の耳はロバの耳」のおとぎ話の原形となったのである。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

いて座 神話

 

いて座に関する神話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~ 

★ペーレウスとケイローン
 ペーレウスはアイギーナ島の領主アイアコスの息子であったが、あるとき、円盤投げ競技の練習をしているときに過って異母弟のポーコスの頭に円盤を当ててしまい、死なせてしまうという事故が起きた(別説ではポーコスがなにかにつけて自分より優秀だったため、ペーレウスの双子の兄弟であるテラモーンと共謀して弟を殺したという説もある)。弟殺しの罪により、ペーレウスとテラモーンは国を追われることとなってしまった。

 

 テラモーンはアイギーナ島の近くにあるサラミス島へ渡り、サラミス島の王キュクレウスの娘グラウケーをめとって王位を継いだ。

 

 一方、ペーレウスははるかテッサリアまで赴いた。ペーレウスはテッサリアのプテイーアー国の王エウリュティオーンに罪を浄めてもらい、その娘アンティゴネーをめとって、エウリュティオーンの領上の3分の1を分け与えられた。

 

 さてそのころ、カリュドーンの地ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

 

 カリュドーンの王オイネウスは神々に収穫を感謝する初穂の祭祀を執り行っていたのだが、どうしたことか月の処女神アルテミスヘの祭祀を忘れてしまった。これに腹を立てたアルテミスは、牛ほどもある野猪をカリュドーンに送り、暴れさせたのである。

 

 猪退治のため、各国から英雄が召集された。のちにアルゴ号探検隊を率いるイアーソーンや、それに同行したカストルポルックス兄弟(双子座)、アテナイの王テセウスとその友人ペイリトオスなど、世界に名だたる勇士たちが集まったのである。

 

 エウリュティオーンはオイネウスの息子メレアグロスの招きを受け、ペーレウスを伴ってこの猪退治に参加した。

 ところがこの猪狩りの最中、ペーレウスの投げた槍がエウリュティオーンの脇腹に当たり、この傷がもとでエウリュティオーンは死んでしまったのである。

 

 ペーレウスはプティーアーを追放され、イオールコス国へたどり着いた。ペーレウスはイオールコスの王アカーストスのもとに身を寄せ、罪を浄めてもらった。

 

 イオールコスではちょうどペリアース(イアーソーンの叔父)の追悼競技会が開かれており、ペーレウスもレスリングの試合へ参加することになった。

 

 試合は負けてしまったものの、その試合を見ていたアカーストスの妻、アステュダメイアはペーレウスに一目惚れをしてしまった。アステュダメイアはひそかにペーレウスに言い寄ったが、ペーレウスがそれを拒絶したため、怒ったアステュダメイアは、夫に「ペーレウスに襲われそうになった」と嘘をついた。

 

 アカーストスは激しく怒ったが、自分の手で客人を殺すことはためらわれた。そこで一計を案じ、ペーレウスを狩りに誘ってペーリオンの山中深くに連れ出した。

 

 狩りで何頭もの獲物をしとめたペーレウスは、疲れが出て眠ってしまった。アカーストスはこっそりペーレウスの剣を隠し、そのままペーレウスを山に置き去りにして帰ってしまった。目を覚ましたペーレウスは、驚いて自分の剣を探しているうち、そのあたりに棲む凶暴なケンタウロス族に襲われてしまった。

 

 武器はなく、周りをすっかり囲まれて、もはやこれまでかというとき、1人のケンタウロスが現れて、ペーレウスの命を救った。彼こそ、ケンタウロス族の長老にして賢者、ケイローンだったのである。

 


★ペーレウスとテティス
 テティスは海の老神ネーレウスの娘であった。大神ゼウスと海神ポセイドンはテティスを勝ち取るために争ったが、法の女神テミス(あるいはプロメーテウス)が「テティスより生まれる子は父をしのぐ者となるだろう」と予言したため、畏れをなした両神はあきらめざるを得なかった。

 

ゼウスは(なかばやけくそであったかもしれないが)テティスをペーレウスに与えることとした。しかし、テティスは人間の妻となることをよしとせず、水に姿を変えて海の中を逃げ回った。

 

 そこでケイローンはペーレウスに「テティスが陸に上がったときに捕まえ、いかなることがあっても放してはならぬ」と秘策を授けた。ペーレウスは言われたとおり、浜でくつろぐテティスを捕まえた。テティスは抵抗して炎や怪物、獅子や大蛇に姿を変えたが、ペーレウスはひしとしがみついて決して放さなかった。やがて精根尽き果てたテティスは、ついにペーレウスの妻となることを承諾したのである。

 

 のちにペーレウスとテティスの間に生まれた子がトロイア戦争で活躍した英雄アキレウスであり、ケイローンアキレウスの養育係も務めている。

 


ケイローンの死
 ぺーレウスの物語からしばらくたったあとのこと。英雄ヘラクレスが、飲んでいた酒の匂いにつられて寄ってきたケンタウロス族と戦ったことがあった(ケンタウルス座を参照)。

 ヘラクレスヒドラ(海蛇座)の猛毒を塗った矢でもって彼らを追い立て、逃げた幾人かをベーリオンの山中まで追いかけた。

 そしてケイローンの住む洞窟に、3人のケンタウロスが逃げ込んできた。

 追いかけてきたヘラクレスは洞窟までやってくると、深く考えることなく矢を洞窟に向けて打ち込んだ。ところが、その矢はケイローンの膝に当たってしまった。

 

 矢に塗られたヒドラの毒は触れた者を死ぬまで苦しめつづけさせるというものだ。

ケイローンはなまじ不死であったがために死ぬこともできず、このままでは永遠に苦しまなけれぱならない。

 

 ついに苦しみに耐えかねたケイローンは神々のひとりプロメーテウスに不死を譲り、死の中に安息を求めたのである。

 

 死後、ケイローンは多くの英雄を育てた功績により、ゼウスの手によって天上へと昇げられて、射手座になったという。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

さそり座 神話

 

さそり座に関する神話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~ 

★大サソリとオリオンの死
 狩人オリオンは海神ポセイドンとミノス王の娘エウリュアレーとの間にできた子で、人並み外れて立派な体格の持ち主だった。
 あるとき、オリオンはキオス島の王、オイノピオンの娘メロペを見初め、オイノピオンにメロペとの結婚を申し込んだ。

 だが粗暴なオリオンを快く思わないオイノピオンは、オリオンを酒宴に招いてしたたかに酔わせ、眠ってしまったところで両目をつぶして浜へ放り出してしまった。
 目を覚ましたオリオンは目が見えぬことに困り果ててしまったが、「東の国へ行き、朝日の光を目に受ければ、再び目が見えるようになる」という神託を受け、鍛冶の神ヘパイストスの工人(=職人)、少年ケダリオンの助けを受けて、彼の誘導で東の国へと向かった。そして東の国で日の神ヘリオスに出会ったオリオンは、その光を受けて再び目が見えるようになった。

 オリオンはオイノピオン王に復讐しようとキオス島に戻ったが、オリオンがやってくることを知ったオイノピオンはヘパイストスが作った地下室に隠れてしまった。
 王に忠実だった島民たちも決して彼の居場所を口外しなかったので、オリオンは復讐をあきらめざるを得なかったのである(オリオン座を参照)。

 仕方なくキオス島をあとにした英雄オリオンはクレタ島に渡り、そこで月の処女神アルテミスと出会った。

 オリオンはしばらくの間、アルテミスとともに狩りをして過ごしていたが、あるとき「俺はこの地上のありとあらゆる獣をことごとく射止めてみせる」と大言壮語した。

 この言葉を聞いて怒った女神ヘーラー(あるいは大地母神ガイア)は、1匹の大サノリをオリオンのもとに遣わし、彼をその毒の尻尾で刺し殺させた。

 このときオリオンを殺した大サソリがヘーラーによって功績をたたえられ、天に昇ってさそり座となったのである。

 オリオンも天に昇ってオリオン座となったが、星となったいまでもサソリを恐れており、さそり座が昇る時分になるとオリオン座が沈みはじめるのはそのためだという。

 

 なお、オリオンの死についてはいくつかの異伝がある。

 アルテミスとともに狩りをして暮らすうち、オリオンは彼女に恋心を抱くようになった。
 アルテミスもまたオリオンを憎からず思っていたか、そのことを知ったアルテミスの兄、太陽神アポローンはオリオンを殺そうとたくらんだ。

 オリオンが海を渡っているときを見計らい、アポローン海上に突きだしているオリオンの頭に金色の光を吹きつけた。
 そしてなにくわぬ顔でアルテミスのもとを訪れ、「いかにおまえが弓の名手でも、あの波間に漂う金色のものを射抜くことはできないだろう」とアルテミスを挑発した。

 アルテミスは怒って弓と矢を手に取ると,その金色のものがオリオンの頭だとは知らず、見事それを撃ち抜いてしまった。

 やがて波うち際に打ち上げられたオリオンの亡骸とその頭に刺さった自分の矢を見て、アルテミスは自分がオリオンを殺してしまったことを知った。
 アルテミスは嘆き悲しみ、自分が天の道を通るときにいつでも見えるようにと天上の星座としたのであるという。


 また別の説ではアルテミスがオリオンに恋をしたものの,オリオンは曙の女神エーオース(もしくはアウローラ)に言い寄ったためにアルテミスが嫉妬にかられて殺したとも、アルテミスに乱暴を働こうとしたオリオンをアルテミス自身が返り討ちにして殺したとも伝えられる。

★パエトーンの馬車
 太陽神アポローンの息子の1人に、パエトーンという少年がいた。

 パエトーンは自分の父がアポローンであることに誇りをもっていたが、友は誰も彼父ががアポローンであると信じようとしなかった。そこでそれを証明するため、パエトーンは遠くのアポローンの住む宮殿まで出かけて行った。

 アポローンはパエトーンが自分の息子であることを認め、その証拠としてなんでも望みを1つ、叶えてやろうと語った。

 するとパエトーンは、太陽を曳く馬車を操らせてほしいと願った。

 この申し出にアポローンは渋った。馬車を曳く馬はひどく気性が荒く、アポローンでなければ御することができなかったからだ。
 しかしパエトーンはアポローンの言質を盾に取り、アポローンが止めるのも聞かずに馬車に乗って飛び出してしまった。

 天空を駆ける馬車の乗り心地は素晴らしいものだった。パエトーンが下界に向かっ手を振ると、パエトーンの友人たちは驚いて見送った。

 だが、すべてがうまくいくと見えたそのとき、異変が起こった。

 太陽の通り道とはいうまでもなく黄道だが、ちょうど蠍座のわきを通り過ぎたとき、サソリが馬の足を尻尾の毒針で刺してしまったのだ。馬は暴れ出し、滅茶苦茶に走りはじめた。

 放っておいては大惨事になると見た大神ゼウスは、雷光を放ってパエトーンを打ち殺した。パエトーンの亡骸は、はるか下のエリダヌス川に落ちてしまったという(白鳥座を参照)。

 

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」