ケンタウルス座

ケンタウルス座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~

■よく見える季節:6月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:6月7日
~~~~~~~~~~

 ケンタウルス座は初夏のころ、南の地平線近くに姿を現す星座です。

 星座の形は横から見た馬の形に、隣のおおかみ座まで届く手が肩のあたりから伸びています。

 中には明るい星もありますが、日本からでは上3分の2ほどまでしか見えないので、あまり馴染みはないかもしれませんね。なお、「ケンタウルス」とはケンタウロスラテン語読みです。

 星図では、右手に槍を構えた半人半馬の生物ケンタウロスの姿として描かれています。左手は隣のおおかみ座をつかんでおり、いまにも槍で貫こうとしている様子です。

 2つの星座がくっついて描かれることからわかるように、おおかみ座はケンタウロスが神々へ捧げる供物であるとして、ケンタウルス座の一部と考えられていました。

 ケンタウルス座の前足にあるα(アルファ)星リギル・ケンタウルスケンタウルスの足)からβ(ベータ)星ハダル(地面)を結んだ線をさらに延ばすと、南天でもっとも有名な星座・南十字星にたどり着き、さらにその先が南極を指します。そのため、この2つを「南の指極-(サザン・ポインターズ)」と呼びます。

 また、ケンタウルス座のω星はぼんやりとした暗い星のように見えますが、実際には1つの星ではなくいくつもの恒星が集まった球状星団です。彗星でも有名な17世紀イギリスの天文学者ハレーが初めて星雲として星図に記したが、いて座にも同じ名のΩ(ω(オメガ)の大文字)星雲があり、略してオメガ星雲というと非常に紛らわしいです。

 

 神話では、ケンタウルス座はその名のとおり半人半馬の生物ケンタウロス族として描かれています。ケンタウロス族は賢者ケイローン(射手座)をはじめとして神話に数多く登場しています。

~~~~~~~~~~

ケンタウロスの発祥
 テッサリアを統べる王にイクシオンという者がいた。

 彼はオイカリアの王デイオネウスの娘、王女ディーアーと結婚するはずだったが、式をすませて引き出物を渡すときになると、イクシオンはデイオネウスを焚火の中に落として焼き殺すという事件を引き起こした。

 義父を殺した罪は重く、誰もイクシオンと親しく付き合おうとも、またイクシオンの罪を浄めてやろうともしなかった。

 その様子を見て大神ゼウスはイクシオンを哀れに思い、彼の罪を浄めてやった。ところが、イクシオンはここでもまた神をも恐れぬ暴挙に出たのである。

 イクシオンは女神ヘーラーに分をわきまえぬ恋をし、しかもヘーラーの寵愛が自分の上にあると人々にふれて回った。

 それを聞いたゼウスとヘーラーははなはだ立腹し、雲で作ったヘーラーの幻をイクシオンに与えた。イクシオンは幻とも気付かず、雲と交わった。

 この雲が宿して生まれた子が上半身が人聞で下半身が馬というケンタウロスである。ケンタウロスは父であるイクシオンの性(さが)を受け継ぎ、野蛮にして粗暴、神を敬うことを知らない一族となった。彼らはテッサリアのペリオン山地に棲み、付近を荒らし回って人々から恐れられたという。

 イクシオンはこののち、冥府の底タルタロスに落とされ、激しく燃えさかる火の車に縛りつけられて永劫の責め苦を受けているという。

  ただし、ケンタウロス族の中でも賢者として人徳にあふれたケイローンと次に繋がるフォーローの2人はイクシオンの子ではない。ケイローンはゼウスの前に世界を清めていたティタン神族の王クロノスと海神オケアノスの娘ピリュラの間に生まれた子であり、フォーローは酒神バッカスの育て親であり、馬の耳と蹄をもつシーレーノスとトネリコの精女メリアスとの子である。

 この2人はしばしば悪役として描かれるケンタウロス族の中にあって、唯一善の質をもった者たちである。


★毒に倒れた不運の戦士
 英雄ヘラクレスが12の功業のひとつ、エリュマントスの大猪退治をしたとき(へルクレス座を参照)、ヘラクレスはフォーローというケンタウロスと親しくなった。

彼は酒神バッカスの義兄弟にあたり、バッカスから「ヘラクレスが来たら開けるよに」とひと壷の美酒を受け取った。

 2人が杯を酌み交わしていたとき、酒の臭いを嗅ぎつけたほかのケンタウロス族がフォーローとヘラクレスに襲いかかってきた。怒ったヘラクレスは、以前退治したレルネのヒドラ(海蛇座)の血から取った猛毒を塗った矢で彼らを追い立てた。並ぷ者なき強さを誇るヘラクレスに、かなわじと見たケンタウロスたちはちりぢりに逃げていった。

 ところが、たまたま落ちた矢を拾い上げたフォーローが鏃に塗っていたヒドラの毒にふれ、運悪く死んでしまった。

 ゼウスがそのことを哀れに思い、フォーローを天に上げて星座にしたという。

 なお、このときヘラクレスは逃げたケンタウロスを追いかけ、過ってケンタウロスの賢者ケイローンに毒矢を射かけてしまった。このときの矢傷が原因でケイローンは死んでしまうのである(射手座を参照)。


★英雄を殺したケンタウロスの睨い
 ヘラクレスが12の功業を成し終えたあとのこと。彼は妻デイアネイラを連れて、エウエノス川を渡ろうとした。だが川は深くて流れも速く、とても渡れそうにない。

 そのとき、ネッソスという1人のケンタウロスが現れ、2人を乗せて川向こうまで送ってやろうと申し出た。

 ヘラクレスがこの申し出を受けると、ネッソスはまずデイアネイラを乗せ、急流を難なく渡って向こう岸に着いた。

 ところが、これはネッソスの謀り事であった。岸に上がるやいなや、ネッソスは欲望に身をたぎらせ、デイアネイラに襲いかかったのだ。

 それを見たヘラクレスヒドラの猛毒を塗った矢をつがえ、ネッソスを射た。矢はネッソスの身体に突き刺さり、ヒドラの毒はたちまち全身に回った。

 死に瀕したネッソスは、デイアネイラに「もし夫が浮気をしたなら、夫の下着に私の血を塗るといい。その愛を取り戻せるだろう」と言ってこときれた。

 そののち、ヘラクレスがオイカリアの王女イオレーを妾にしたとき、夫の愛を失うことを恐れたデイアネイラは、かつて言われたとおりヘラクレスの下着にネッソスの血を塗った。

 ところが、ネッソスの血は愛を取り戻す薬などではなく、彼の身体に回ったヒドラの猛毒だったのだ。これにふれたヘラクレスはたちまち全身がただれ、すさまじい苦しみにさいなまされた。ヘラクレスはたまらずオイテ山に火葬壇を築かせると、自らその火の中に身を投じた。ついにここで不死の英雄もガ尽きたのである。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」