ヘルクレス座

ヘルクレス座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:8月ごろ。
■20時南中の時期:8月5日


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 ヘルクレス座は真夏の盛り、天頂付近に見える全天で5番目に大きな星座です。


 星座の形は五角形と台形を組み合わせた胴体に、広げた両手と片膝をついた足がくっついています。ヘルクレス座を構成する星は3等星以下の暗めの星ばかりなので、実際に見分けるのは少し難しいかもしれません。


 星図では片手にこん棒、もう一方の手に2匹の蛇もしくは林檎の枝を持った偉丈央の姿として描かれています。ただし天頂を上と見た場合、頭を南、つまり地面に向けているので、しばしば上下逆さまに描かれています。


 ヘルクレス座の右腰(天頂を上と見れば胴体部分の右上)、ζ(ゼータ)星とη(イータ)星の中問あたりには有名なヘラクレス球状星団M13があります。光度でいえば6等星くらいなので肉眼で見るのは少し難しいですが、天体望遠鏡で見ると5万個以上もの星が密集しているのがわかります。


 ヘルクレス座は、いうまでもなく英雄ヘラクレスの姿を象ったものですが(「ヘルクレス」とはヘラクレスラテン語読み)、古代ギリシアでは「エンゴナシン(脆く者)」「アイドロン(幻)」という名で呼ばれ、実際にこの星座とヘラクレスが結びついたのは少しあとの時代になります。またフェニキアでは、メルカルトという神の名で呼ばれ、あがめられていたという。


 神話に語られるヘラクレスは、まさしくギリシア最大の英雄である。その伝説を挙げれば数限りなく、またしし座やかに座、うみへび座のように星座の中にもヘラクレスの冒険に登場したものや、なんらかの形でヘラクレスとつながりをもつものが数多く存在します。

 

 

 神話は、もっとも有名な12の功業についての伝説を取り上げてみることにしましょう。

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★英雄ヘラクレス
 あるとき、大神ゼウスはミュケーナイの王女アルクメネーを見初め、彼女の夫アン
ピトリュオーンに姿を変えてアルクメネーと契りを交わした。

 アルクメネーにはゼウスの胤が宿り、やがて生まれたのが英雄ヘラクレスであった。

 ヘラクレスは赤子のころから神性をもっており、ゼウスの浮気に立腹していた女神ヘーラーが揺りかごに送り込んだ2匹の毒蛇を、素手で絞め殺すほどであった(一説には、ヘラクレスの父アンピトリュオーンが、ヘラクレスと彼の弟イピクレスのどちらに神性があるのか見極めようとして毒蛇を投げ込んだともいわれる。イピクレスば怯えて逃げたが、ヘラクレスは勇敢にも毒蛇を握りつぶしたため、アンピトリュオンはヘラクレスこそ神の血を引く子だと悟ったというのである)。


 ヘラクレスはアンピトリュオーンからは戦車を駆る術、アウトリュコスからはレスリング、エウリュトスからは弓術を学び、それらの技術を身につけた。だが、音楽の才にだけは恵まれていなかった。ヘラクレスに弾琴を教えたのは、かの伝説的詩人オルフェウス(琴座を参照)の弟といわれているリノスだったが、ペラクレスがあまりに物覚えが悪いのに腹を立てて殴ったところ、怒ったヘラクレスに琴で殴り返されて死んでしまった。

 アンピトリュオーンはそのような騒ぎを再び繰り返さぬため、ヘラクレスをキタイ
ロン山中の牧場に送った。そこでヘラクレスは羊飼いをしながらすくすくと育ったの
である。

 やがて成人した彼は、並外れた体と力をもつ青年となった。19歳(あるいは17歳とも)のころには山中に住んで家畜や人を襲っていた獅子を退治し、その皮をはいで頭の部分を兜代わりにかぶっていたという。

 やがて並ぶ者なき豪傑となったヘラクレスは、あるとき、オルコメノス国からテーバイ国へ貢ぎ物を受け取りに行く使者と出会った。当時、テーバイはオルコメノスに隷従しており、オルコメノスはテーバイに毎年100頭の牛を貢ぎ物として要求していたのである。

 気性の激しかったヘラクレスは使者の鼻と耳をそぎ落とし、紐でつないで使者の首にかけさせて「貢ぎ物の代わりにこれを持って帰れ」と言った。

 オルコメノスの王エルギノスはこれを知って激怒し、テーバイヘ大軍を率いて攻め寄せた。だがヘラクレスは戦女神アテナに神の武具を借り、劣勢だったテーバイの軍を奮い立たせてこれを率い、オルコメノス軍を討ち果たしたのである。

 ヘラクレスはエルギノスの首を収り、オルコメノスから逆に2倍の貢ぎ物を取り立てることで講和した。

 ヘラクレスはこの功績をたたえられ、テーバイ王クレオーンの娘、王女メガラを妻として与えられたのである。

 メガラは3人の子を生み、ヘラクレスは幸せに暮らしていたが、ヘーラーはまたしてもこれを憎んだ。

 そこでヘーラーは狂気の女神を遣わした。狂気の女神はヘラクレスに取り憑いて狂乱させ、メガラと3人の子をヘラクレス自身の手で殺させてしまったのである。

 正気に戻ったときにヘラクレスは自分のしてしまったことを深く悔やみ、国を捨てて贖罪の旅に出た。

 まずヘラクレスデルフォイの神殿に行き、罪を浄めるためにはどうすれぱいいか、神託を伺った。すると神託は、「ティーリュンスの王エウリュステウスに12年間仕え、彼の出す10の難業を成し遂げよ。さすれば神々の一員とならん」と告げた。

 なおヘラクレスという名は「ヘーラーの栄光」を意味する名である。本来の彼の名は「アルケイデス」といい、ヘラクレスの祖父アルカイオスの子孫という意味だったが、デルフォイで神託を受けたとき、ヘーラーの怒りを鎖めるためにヘラクレスに改名したといわれている。


★10の難業
 ヘラクレスは神託に従ってティーリュンスに赴いた。

 さて、ティーリュンスの王エウリュステウスはヘラクレスの従兄弟にあたるのだが、非常に傲慢にして卑劣、そのくせ臆病な男であった。

 そんな彼がなぜ王になれたかというと、ヘラクレスが生まれる直前、ゼウスが「次に生まれる者がミュケーナイの王となるだろう」という予言をしたのだが、これを耳にしたヘーラーが安産の女神エイレイテュイアに頼んでアルクメネーのお産を2ヵ月遅らせ、先にエウリュステウスが生まれるようにしむけたのである。結局この予言は成就され、エウリュステウスは成人してのち、ティーリュンスおよび前王アンピトリュオ-ン亡きあとのミュケーナイを治めていた。

 ところが自分よりはるかに強く、指導者の資質に優れたヘラクレスが現れると、彼は自分の王位が脅かされるものと思い、難業にかこつけてなんとか彼を排除しようとたくらんだ。


 第1の難業として、まずエウリュステウスはネメアの森に棲む獅子(獅子座)退治を命じた。化け物といわれる獅子相手ならば、ヘラクレスといえどかなうまいと考えたのである。
 だがヘラクレスは獅子を退治して帰ってきたので(しし座を参照)、エウリュステウスは大いに肝をつぶした。


 第2の難業はレルネの化け蛇ヒドラ(うみへび座)の退治である。いくら剣で斬っても死なない不死身のヒドラヘラクレスは少々手こずったものの、従者として連れて行った甥のイオラオスヒドラの傷口を火で焼くという機転を見せ、ヘラクレスはこの難業も無事こなした(うみへび座を参照)。


 第3の難業はケリュネイアの山に棲む鹿を生け捕りにせよというものだった。

 この鹿は金色の角をもち、月の処女神アルテミスの聖なる眷属だったので、ヘラクレスは鹿を傷つけないよう細心の注意を払わなくてはならなかった。

 そしてケリュネイア山中で1年もの間鹿を追いかけた末、ようやく捕らえることに成功したのである。

 ところがこの行いに立腹したアルテミスは、兄である太陽神アポローンと連れだって現れ、ヘラクレスを責めた。ヘラクレスはエウリュステウスの命令でやむなく鹿を捕らえたということを説明し、仕事がすみ次第、元どおりに放すことを約束してようやく了解を得たのである。


  第4の難業はエリュマントス山に棲む大猪の退治である。この大猪はブソービスの町を襲っては大いに住民を悩ませていた。

  ヘラクレスは猪の棲む洞窟の前で大声を上げて猪を追い出し、深い雪の中へ追い込んで、足が雪にはまって動けなくなったところを生け捕りにしたのだった。

  なお、この猪退治に赴く最中、彼は過ちからケンタウロス族の賢者ケイローン(いて座)を殺してしまっている(いて座、ケンタウルス座を参照)。


  第5の難業はエーリスの王アウゲイアースの厩(うまや)を1人だけで、1日で掃除せよというものだった。この厩はおそろしく広大で、しかも一度も掃除をしたことがないので肥がうずたかく積もり、凄まじい様相を呈していた。

 ヘラクレスはこのとき、アウゲイアースにエウリュステウスの命令で来たことを隠し、もし家畜の10分の1をくれるなら厩を掃除してやろう、という話をもちかけた。

アウゲイアースはまさか可能であるとは思われなかったので、息子のピューレウスを証人としてヘラクレスの申し出を受けた。

 ヘラクレスはこの難題を、厩の近くを流れるアルペイオス川の水を引き、厩の中に流し込んで、きれいさっぱり洗い流してしまうことで解決した。

 ところがアウゲイアースは家畜を渡すのを渋り、しかも彼がエウリュステウスの命で来ていたことを知ると、ヘラクレスをさんざんなじって約束を反故にした。

 証人となったピューレウスは信義を重んじる者だったので、アウゲイアースに家畜を渡すよう進言した。だがアウゲイアースは耳を貸さず、ヘラクレスともどもピューレウスを国外へ追放した。ピューレウスはその後、ドゥーリキオン島へ渡ってそこに住んだという。


 第6の難業はステュンパロス湖の鳥をなんとかせよというものだった。ステュンパロス湖とその周辺の森には無数の鳥が巣を作っており、近隣の町はその騒がしさで非常な迷惑をこうむっていたのである。

 ヘラクレスは熟考の末(あるいはアテナが知恵を貸したともいわれる)、青銅の巨大な銅鐸を打ち鳴らし、鳥たちが驚いて飛び立ったところを得意の弓矢で射落とした。


 第7の難業はクレタ島の牡牛を連れ帰ることだった。この牡牛はクレタの王ミノスが海神ポセイドンから生け賛として捧げるために手に入れたものだったが、牛の見事さに生け賛にするのが惜しくなったミノスがポセイドンとの誓約をたがえて別な牛を生け賛にしたため、ポセイドンの呪いによってひどく凶暴になってしまっていた(おうし座を参照)。

  ヘラクレスは独力でこれを捕らえてエウリュステウスのもとに持ち帰ったが、その後、牡牛はギリシア中で暴れ回り、のちにアテナイの英雄テセウスによって退治されることとなる。


 第8の難業はトラキア王ディオメデスが所有する牝馬を奪ってくることだった。この馬は武神アレースとニンフのキュレーネーの子ともいわれ(アレースはトラキアと縁の深い神で、アテナやアポローンといったほかの神にくらべて、野蛮で血なまぐさい性質をもっていた)、非常に凶暴で、ディオメデスはこの牝馬に人肉を与えて養っでいた。

 ヘラクレストラキアに赴いてディオメデスを殺し(そして馬に食わせたともいわれる)、牝馬を奪った。だがディオメデスの兵士たちが異変を聞きつけて集まってきたので、ヘラクレスは従者として連れていた少年アブデーロスに馬番をさせ、兵士たちと戦ってこれを潰走させた。


 ところ牝馬のところへ戻ってみると、アブデーロスは凶暴きわまるこの牝喝に食い殺されてしまっていた。

 ヘラクレスはこれを嘆き、少年を記念して近くに町を建設した。これがのちのアプデーラ市となったのである。


 第9の難業はエウリュステウスの娘アドメーテーの望みで、アマソンの女王ヒッポリュテの帯を取ってくることだった。

 アマソンはギリシアからはるか東、小アジアの奥にあるといわれた国で、弓を引くときに邪魔にならぬよう片方の乳房を切り落とした勇猛な女戦士たちによって治められていた。
 ヘラクレスは船を什立て、長い航海の末アマソンヘとやってきた。

 ヒッポリュテはヘラクレスを歓待し、帯を譲ることを快く承諾した。

 が、またしてもヘラクレスを憎むヘーラーの陰謀によって、アマソンの女戦士たちは「ヘラクレスがヒッポリュテをさらって行こうとしている」と信じ込んでしまった。

 女戦士たちは武器を手にヘラクレスの乗った船に押し寄せた。ヘラクレスはヒッポリュテにだまされたと思い、彼女を殺して帯を持ち帰った。

 異説では、ヘラクレスははじめからアマソンと戦ってその首領であるメラニッペーを捕虜とし、メラニッペーの姉ヒッポリュテが捕虜の代償として帯を渡したとするものもある。


 第10の難業は、怪物ゲリュオンが持つ赤い牛を奪ってくることだった。

 ゲリュオンは1つの胴体に3つの上半身と下半身をもつ巨人であり、しかも牧羊犬としてこれも凶暴な怪物オルトロスを飼っていた。オルトロスは、昔オリュンポスの神々と戦ったティタン神族の生き残りの怪物テュフォンとエキドナの子で、第1の難業で倒したネメアの大獅子の兄弟だといわれていた。

 ゲリュオンは世界の西の果ての近く、エリュテイア島に棲んでいた。

 ヘラクレスは太陽神ヘリオスから黄金の船を借り、それに乗ってオケアノスの大洋を渡ってエリュテイア島に上陸した。

 すると、さっそくオルトロスヘラクレスの臭いを嗅ぎつけて襲ってきた。ヘラクレスは視棒でこれを打ち殺し、牛を奪い去った。

 牛を船に乗せていたとき、騒ぎを聞きつけてゲリュオンがやってきた。ヘラクレスは船を出したが、海に入ってもゲリュオンはなお追ってきた。

 ヘラクレスは弓矢を取り、ゲリュオンの3つの頭すべてを撃ち抜いてこれを殺した。

 ヘラクレスヘリオスに黄金の船を返し、ティーリュンスに持ち帰った牛はヘーラーに棒げられた。
 これで10の難業はすべて果たしたはずだったが、エウリュステウスはそのうちの2つ、ヒドラ退治と厩掃除について難癖をつけた。ヒドラ退治はイオラオスの手を借りたこと、厩掃除は勝手にアウゲイアースと取り引きしようとしたことである。

エウリュステウスはこの2つを無効とし、新たな難業を言い渡した。

 

★新たなる難業
 第11の難業は、ヘスペリデースの園にある金の林檎を取ってくることだった。

 ヘスペリデースの園は、世界の西の果てにある仙苑である。ここには大地母神ガイアがゼウスに結婚の祝いとして贈った、金の林檎の木があった。その木は100の頭をもつ不死身の竜が守っており、生半可のことではこの難業を果たすことはできまいとエウリュステウスは思ったのである。

 だが、ヘラクレスはヘスペリデースの園へ行く途中、岩山に縛りつけられていた賢者プロメーテウスを助け、彼の助言に従って天を支える巨人アトラスの助けを得て、この難業を果たした(うしかい座を参照)

 

 そして最後、第12番目の難業は、地獄の番犬ケルベロスを連れて帰ることだった。

 ケルペロスは地獄の入り□を見張る番犬で、3本の首と蛇の尻尾をもち、さらに背中から無数の蛇が生えていた。このケルベロスもやはりオルトロスと同じくテュフォンとエキドナの子で、恐るべき怪物であった。

 さすがにこの難問にヘラクレスは頭を悩ませたが、アテナと伝令神ヘルメスに励まされ、タイナロン岬にある地獄へ通ずる穴を下って行った。

 ヘラクレスは冥王ハデスに会い、ケルベロスを貸してもらえないかと頼んだ。ハデベは「もしケルベロス素手で降参させることができたら貸してやろう」と答えた。

 ヘラクレスケルベロスと対峙した。ケルペロスは口から火を吐き、ヘラクレスに噛みついたが、ヘラクレスケルベロスの首をつかんで締め上げ、ケルベロスが暴れても蛇に噛みつかれても決して放さなかった。

 ついにケルベロスも降参し、ヘラクレスはエウリュステウスのもとヘケルベロスを待ち帰ったのである。

 ケルベロスはエウリュステウスを大いに驚かせたあと、ハデスのもとへと返された。

 

 こうして晴れて年季の明けたヘラクレスは、それからも各地を旅して、盗賊ケルコ ーペスを退治したり、厩掃除で約束をたがえたアウゲイアースに復讐するため、エーリスに攻め寄せてこれを陥落させたりとさまざまな伝説を作った。


 最後はヘラクレスが殺したケンタウロスのネッソスが、いまわのきわにヘラクレスの妻デイアネイラに「浮気を防ぐ薬」として与えた毒が原因で死んでしまうのだが(ケンタウルス座を参照)、その偉大なる功績をたたえて神々の一員に列せられ、天上へ昇って星となった。これがヘルクレス座となったのである。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

かんむり座 みなみのかんむり座

かんむり座 みなみのかんむり座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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かんむり座

■よく見える季節:7月ごろ。
■20時南中の時期:7月13日

 

南のかんむり座

■よく見える季節:8月ごろ。
■20時南中の時期:8月25日


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 かんむり座は7月ごろのほぼ天頂、うしかい座のそばに見られる小さな星座です。
 正式にはみなみのかんむり座に対してきたのかんむり座というが、日本語では単にかんむり座と訳されています。


 また、神話ではクレタ島の王女アリアドネーの冠とされているため、「アリアドナエア・コロナ」「コロナ・アリアドナエ」(ともに「アリアドネーの冠」の意味)と呼ばれることもあります。

 

 星座の形は7個の星が半円を描くように並んでいて、中央のα星アルフェッカ(欠け皿)は2等星で、ほかの星よりもひときわ明るく輝いています。宝石のついた冠を連想することができる、美しい星座です。


 一方、アラビアやペルシアでは冠座を「乞食の皿」「貧乏人の皿」と呼びます。これは星座が半円形を描いているため、縁の欠けた皿に見立ててそう名付けたられました。


 またオーストラリアの土着民は、彼らの発明品であるブーメランに見立てています。


 日本では「太鼓星」「車星」と呼ばれ、一部の地方では平将門の娘・桔梗姫の着けていた首飾りが星になったものとして「首飾り星」と呼ぶところもあります。


 天の星々で作られた冠というのはいかにもロマンチックですが、この星座にまつわる神話も悲劇の多いギリシア神話においては珍しく、やさしさを感じさせるものです。
 みなみのかん座は8月ごろ、いて座の南に見える星座です。


 形、大きさともに冠座によく似ており、南冠座の名はそこから付けられたと推測されます。また、48星座を設定したプトレマイオスは「南のリース(花輪冠)」の名で星図に記しています。


 みなみのかんむり座は「ケンタウロスの冠」「射手の冠」とも呼ばれることがあります。これは南冠座が射手座のすぐ南にあることからきています(いて座は半人半馬のケンタウロス族の賢者ケイローンをあらわしています)。


 また、みなみのかん座の中央、かんむり座でいえばアルフェッカのある場所には、α星アルフェッカ・メリデアィナ(南の欠け皿)があります。かんむり座に対比して付けられた名ではないでしょうか。


 残念ながら、南冠座について伝わっている神話はありません。

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★やさしき酒神
 エーゲ海と地中海にはさまれたクレタ島に、ミノスという王がいた。


 ミノスはかつて兄弟たちを退けて自分が王となるため、海神ポセイドンとある契約を交わした。人々に自分が神に選ばれた者であることを示すため、牡牛を1頭遣わしてくれるかわりに、その牛を生け賛として捧げるというものだった。


 ミノスの祈りは聞き届けられ、海中より波を分けて1頭の立派な牡牛が現れた。
人々はこれを見てミノスを褒めたたえ、ミノスは晴れてクレタ島の王位に即いたのだった。


 だがミノスは王位に即いたあと、ポセイドンから遣わされた牡牛があまりに見事だったので生け賛にしてしまうのが惜しくなり、別の牛を代わりに捧げて、その牡牛を自分の物としてしまった。


 約束をたがえたミノスに怒ったポセイドンは、ミノスの妻パシパエがその牡牛に道ならぬ恋心を抱くように呪いをかけてしまった。パシパエは日々募る想いに煩悶を繰り返し、ついにアテナイから亡命してきた工人ダイダロスの知恵を借りて、恐るべき恋情を成就させてしまったのである。


 この呪われた結びつきによって生まれた息子は、牛頭人身のミノタウロス(ミノスミの牛)という怪物であった(牡牛座を参照)。


 怪物とはいえ自分の息子を殺すに忍びなかったミノスは、ダイダロスに命じて島の岩盤をくりぬいた迷宮を作らせ、その中にミノタウロスを閉じ込めた。さらに当時、クレタ島支配下に置かれていたアテナイの町から毎年、もっとも美しい少年と少女を7人ずつ差し出させては、ミノタウロスの餌として迷宮に放り込んでいたのである。


 この非道な行いをやめさせるため、アテナイの王子テセウスミノタウロスを退治することを決意し、生け賛の少年たちに混じってクレタ島へと向かった。


 やがて船はクレタに着き、ミノス王の前に14人の少年少女たちが並ばされた。


 そのとき、物陰からその様子を眺めていた女性がいた。ミノスの娘、王女アリアドネーである。アリアドネーは並ばされた少年少女たちの中にテセウスを見つけ、一目で恋に落ちてしまった。


 アリアドネーは、テセウスたちがミノタウロスの餌として迷宮に入れられることを知っていたが、彼女ではそれをやめさせることはできなかった。そこでダイダロスに知恵を借り、見張りの兵士の隙を見て、こっそりひと振りの剣と麻の糸玉をテセウスに渡した。


 迷宮に入れられたテセウスは、麻糸を入り口の扉近くに結わえつけ、剣を手に恐れることなく迷宮の奥へと進んだ。


 ミノタウロスは凶暴な恐ろしい怪物ではあったが、テセウスは激しい格闘の末、これを討ち果たした。そして麻糸をたぐって入り口まで戻り、かねてより示し合わせていたアリアドネーを連れて船を奪い取り、クレタ島を脱出したのである。

 


 ところが、テセウスは途中立ち寄ったナクソス島で、戦女神アテナの「アリアドネーを置いてすぐに島を出よ」という神託を受けた。仕方なくテセウスは、アリアドネーが」眠っている隙に舶を出し、彼女を置き去りにしてアテナイヘ梱って行ってしまった。


 愛するテセウスに置き去りにされ、アリアドネーは涙に暮れて海に身を投げようとしたが、そこに現れたのがナクソス島を支配していた酒神バッカスであった。バッカスアリアドネーを慰め、やがてアリアドネーを妻に迎えた。


 バッカスアリアドネーに妻の証として、7つの宝石をちりばめた美しい冠を贈った。


 アリアドーネはその後、バッカスの妻として幸福に暮らし、やがてアリアドネーが亡くなると、バッカスは妻に贈った冠を天に飾ったという。これが冠座となったのである。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

からす座

からす座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:5月ごろ。
■20時南中の時期:5月23日
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 からす座は初夏のころ、おとめ座の南西地平線近くに見られる小さな星座です。


 「闇夜のカラス」という言葉があるが、この夜空にまたたくからす座も、どちらかといえば目立たない、地味な星座です。形は4つの3等星がいびつな四辺形を描いており、この星の並びからカラスを連想するのはちょっと難しいです。


 イギリスでは、この星座を「スピカのスパンカー」と呼ぶこともあります。スパンカーとは大型帆船の後部にある縦帆のことで、おとめ座の1等星スピカに対してイギリスの船乗りたちが付けた名だそうです。

 

 日本の石川県でもからす座を「帆かけ星」と呼ぶところがあります。カラスよりもむしろこれらのほうが、形としてはふさわしいでしょうか。
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 神話では、カラスはイルカと並んで太陽神アポローンの主要な使いとされており、もちろんこの星座の神話にもアポローンが大いに関係しています。
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★告げロカラス

 昔、太陽神アポローンが世界の国々を旅していたときのこと。アポローンテッサリアの王女コローニスと恋に落ち、夫婦となった。


 アポローンはコローニスに自分の使いである白銀のカラスを与えた。このカラスは人の言葉を話し、天上界と人間界を行き来してはアポローンにコローニスの様子を伝えた。

 

 ある日、カラスがコローニスのもとにやってくると、コローニスはたまたま1人りの男性と親しげに話をしていた。カラスはあわててアポローンのもとに飛んで帰り、「コローニスが浮気をしていますよ」とアポローンに告げた(道草を食っていて遅く)なったため、嘘をついたという説もある)。


 アポローンは烈火のごとく怒り、1本の矢を放った。矢はぐんぐんと飛び、遠く離れたコローニスの胸にぐさりと突き刺さった。


 瀕死のコローニスは倒れたまま天を仰ぎ、アポローンに「せめて、お腹にいるあたと私の子の命だけは助けてください」と懇願して、こと切れた。


 自分の過ちに気付いたアポローンは激しく後悔した。そしてコローニスの腹を割いて取り上げた息子をアスクレーピオスと名付け、ケンタウロス族の賢者ケイローン(いて座)に託した。この子がのちに、アルゴ号探検隊などの冒険にも参加した名医アスクレーピオス(へびつかい座)となるのである。


 一方、いい加減なことを言ってアポローンを惑わせたカラスはアポローンの不興を買い、人の言葉を話せないようにされたうえ、身体を全身醜い黒に変えられてしまった このときからカラスはガアガアとしか嗚けず、色も黒くなったのだという。


 のちにこのカラスが天上に昇って星となり、からす座となったのである。


  一説には、目の前のコップ座にくちばしが届かないように置かれ、水が飲めないようにされたともいわれている。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

コップ座

コップ座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:5月ごろ。
■20時南中の時期:5月8日
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 この星座の名を聞いたことのある人はあまりいないでしょう。うみへび座としし座、おとめ座の中間あたりにある、小さな目立たない星座です。
 星座を構成する星は4等星以下の暗い星ばかりですが、形は台のついた西洋風の杯に酷似しており、見つけることができれば、なるほどコップだと納得できます。
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 このコップは太陽神アポローン、勇者ヘラクレス、酒神バッカスなど幾多の神の持
ち物といわれているが、その中のひとつ、魔女メーディアの神話を取り上げてみます。

 

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★策略に長けた魔女
 魔女メーディアはもともとはコルキス国の王女だったが、イオールコスの王子イアーソーン率いるアルゴ号探検隊が黄金の羊毛を求めてコルキスに来たとき、イアーソーンに激しく恋をしてしまった。


 メーディアはイアーソーンを排除しようとする父王アイエーテースに逆らい、イアーソーンを助けて黄金の羊毛を手に入れ、彼とともにイオールコスヘと逃れてきた(アルゴ号座を参照)。


 さて、イオールコスの国はイアーソーンの叔父ペリアースによって支配されていた。


 イアーソーンはペリアースに「約束どおり黄金の羊毛を持ってきた。王位を返してくれ」と言ったが、王位を譲る気などまるでないペリアースは約束など知らないと突っぱねた。


 そこでメーディアは一計を案じ、ベリアースの3人の娘の前で年老いた1頭の羊を若返らせる魔法を使って見せた(あるいはイアーソーンの父、年老いたアイソーンを苔返らせたという説もある)。


 この若返りの魔法とは、羊の喉をかき切って魔法の霊薬を血管に満たし、ぐらぐらに湯を沸かした大釜で煮るという凄絶なものだった。が、効果は確かなもので、年老いた羊は見事に若返り、大釜から飛び出して3人の娘の前でぴょんぴょんと飛び跳ねた。


 娘たちからこの話を聞いたペリアースは、白分もぜひ若返らせてほしいとメーディアに頼み込んだ。


 これこそメーディアの待っていたことだった。メーディアはペリアースの喉を切り裂き、そのまま釜で茹でて煮殺してしまったのである。


 このときにペリアースを煮た釜がコップ座になったといわれている。


 ちなみにこの後、イアーソーンとメーディアは叔父殺しの罪でイオールコスを追放され、コリントス国に移り住んだ。しかし、イアーソーンは妻の恐ろしさに嫌気がさしコリントスの王女グラウケーと愛し合うようになった。メーディアは怒りのあまりグラウケーを殺し、自らは竜の曳く馬車に乗って、いずこかへ飛んで行ったという。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

うみへび座

うみへび座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:4月ごろ。
■20時南中の時期:4月25日
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うみへび座は春から夏にかけて南の空に見える、非常に大きな星座です。


頭はかに座の下から、胴体はろくぶんぎ座、コップ座、からす座のわきを通り、ケンタウルス座の頭部近くまできてようやく尾の先にたどりつきます。長さでは全天でもこの星座に勝るものはなく、角度にすれば100度以上もの幅をもっています。
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神話ではこのうみへびは、ヘラクレスの退治したレルネの化け蛇ヒドラということになっています。ヒドラは9本の頭をもつ蛇とされていますが、星座では1本しかありません。

ここでは、ヘラクレスがいかにしてヒドラを退治したか、その顛末について語っています。
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 ★不死身のヒドラ
 ギリシア最大の英雄ヘラクレスは大神ゼウスとミュケーナイの王女アルクメネーの間にできた子だったが、夫の浮気に加えてヘラクレスがひどく優秀な子だったので、ゼウスの妻である女神ヘーラーにひどく憎まれていた。


 ヘーラーはヘラクレスを苦しめるために陰謀をめぐらし、狂気の女神を遣わしてヘヘラクレスに狂気を取り憑かせ、彼の妻メガラとその間にできた3人の子をヘラクレス自身の手で殺させてしまったのである(ヘルクレス座を参照)。


 正気に返ったヘラクレスは自分のしてしまったことをひどく悔やみ、犯した罪を償うためにデルフォイの神殿に赴いて神託を受けた。それによると、ヘラクレスが罪を許されるためにはティーリュンスの王エウリュステウスもとで12年の間、仕えなくてはならないということであった。


 さて、エウリュステウス王は傲慢なくせに臆病であったので、屈強なヘラクレスを見て王座を奪われるのではないかと恐れ、彼を排除せんとしてネメアに棲む大獅子退治を命じた(しし座を参照)。


 ところがヘラクレスが見事大獅子を退治してしまったのを知り、エウリュステウスはさらに危険な使命を彼に与えた。それがレルネに棲む化け蛇ヒドラの退治である。


 ビドラは前に倒したネメアの大獅子と同じく、怪物エキドナとテュフォンの子で、9本の首をもち、うち1本は不死身であった。しかもどれかけを1つ切り落とすと、その切り口から新たな首が生えてくるのである(切り□から2本の首が生えてくるという説もある)。


 ヘラクレスは甥のイオラオスを件って、この蛇を退治しに出かけた。


 まずヘラクレスは火矢を用い、ヒドラをアミューモーネーの泉のそばにあった住処から追い出した。


 出てきたヒドラヘラクレスは得たりとばかりに押さえつけたが、ヒドラは尾をヘラクレスにからみつかせて抵抗した。また、ヘラクレスを憎むヘーラーが1匹の化け蟹(かに座)を遺わし、ヘラクレスの足をはさんで邪魔をした。


 ヘラクレスは化け蟹を踏みつぶして殺し、剣でヒドラを斬りつけたが、ヒドラは新しい首を生やすばかりでなんの効果もない。


 そこへイオラオスが機転を利かせ、火のついた薪を持って、ヒドラの首の切り口を焼いてしまった。するとヒドラは首を生やすことができなくなった。


 ヘラクレスは残る首すべてを切り落として傷口を焼き、不死の首は巨大な石の下敷きにした。こうしてヘラクレスはようやくヒドラを退治することができたのである。


 ヘラクレスは退治したヒドラの胴を裂き、猛毒をもつ肝の血に自らの矢の鏃(やじり)を浸して、恐るべき毒矢を手に入れた。


 のちにこれがケンタウロス族の賢者ケイローン(いて座)や、同じくケンタウロス族にしてヘラクレスの友フォーロー(ケンタウルス座を参照)、ヘラクレスが死ぬ原因を作った粗野なケンタウロスのネッソスをも殺すことになるのである。


 その後、ヒドラは天に昇り、星座となった。これがうみへび座である。なお、うみへび座の首が1本しかないのは、残りをすべてヘラクレスに切り落とされてしまったからだという。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

うしかい座

うしかい座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:6月ごろ。
■20時南中の時期:6月26日
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  うしかい座は春から初夏にかけて東の空に見られる、かなり大きな星座です。


 星座の形は長細い五角形をしており、その五角形を胴体と見て両手を振り上げ、両足を踏ん張っている巨人の姿が星図には描かれています。


 かなり古くから知られている星座ですが、この星座の元となった人物が誰であるのかは様々な説があり、はっきりしていません。うしかい座の名は、北斗七星を牛車に見立て、牛をひいて歩く牛飼いであるとしたことから付いた名です。なお、学名のBootesは、英語では2番目のo(オー)に別々に発音されることを示す分音符がつきます。そのため、学名はブーツでなく、ボオーテスと読みます。


 うしかい座の腰にあたる部分には夜空でもひときわ明るい1等星アルクトウールスがありますが、このアルクトウールスとは「熊を追う者」もしくは「熊の番人」の意味で、おおぐま座の隣にあることからうしかい座は熊を追う狩人であるとか、あるいは神話で熊に変化し、おおぐま座となった侍女カリストーの息子アルカス(こぐま座)であるなど、さまざまな説があります。


 また、うしかい座のすぐ西にはポーランド天文学者ヘヴェリウスが17世紀に設定した星座・りょうけん座がありますが、この2匹の猟犬はうしかい座の連れている猟犬でともに熊を追っているのだとされています。

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 うしかい座は天頂付近にある星座のため、ギリシアではうしかい座を天を支える巨人アトラスになぞらえることがある。ここではその巨人アトラスの神話について紹介しましょう。
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★天を支える巨人
 巨人アトラスは、かつて大神ゼウスの率いるオリュンポス神族との戦争で敗れた巨神族の1人で、ゼウスにより永久に天を担いで支えていなくてはならないという辛い役目を負わされていた。


 そんなあるとき、勇者ヘラクレスがアトラスのもとへとやってきた。彼はティーリェュンスの王エウリュステウスの命令で、12の功業のひとつ、西の果てに棲むヘスペリデースの園にある金の林檎を収りに行く途中だった(ヘルクレス座を参照)。


 ヘラクレスは金の林檎を探す旅の途中、岩山に縛りつけられていた賢者プロメーテウスを助けたことがあった。プロメーテウスは礼として、彼に金の林檎を手に入れるのなららアトラスに協力を頼むといいと教えてくれたのである(や座を参照)。


 アトラスはヘラクレスの話を聞くと、「それならわしが金の林檎を取ってくる間、わしに代わって天を支えていてくれ」とヘラクレスに言った。ヘラクレスは了承し、アトラスが戻ってくるまで天を支え続けることになった。


 やがてアトラスは金の林檎を携えて戻ってきたが、アトラスはこの天を支え続ける仕事に飽き飽きしていたので、ヘラクレスに仕事を押しつけようと考えた。アトラスは「わしが代わりにこの金の林檎を届けておいてやろう」と言ってそのまま立ち去ろうとした。


 ヘラクレスはアトラスのたくらみを見抜いたが、天を支えたままではアトラスを追いかけることもできない。そこで知恵を働かせて、アトラスに次のように言った。


 「やれやれ、そうしてくれるのはありがたいが、俺は天を担ぐのに慣れていないので肩が痛くてたまらない。どうすれば楽に天を担げるのか、ちょっとやって見せてくれないか?」

 

 単純なアトラスは、いいだろうと言って金の林檎を置くと、慣れた様子で天を担いで見せた。


 するとヘラクレスは素早く金の林檎を拾い上げ、そこからさっさと逃げてしまった。


アトラスがヘラクレスにだまされたと気付いても、もはやあとの祭りだったのである。


 のちにペルセウスペルセウス座)が人を石にしてしまう妖怪メドゥーサを退治したとき、天を支える仕事に疲れ果てていたアトラスはペルセウスに頼んでメドゥーサの心を自ら浴び、自分を石にしてもらった。


 やがてアトラスは星となったが、いまでもそのまま天を支え続けているのだといわれる。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

りゅう座

りゅう座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

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■よく見える季節:春。
■20時南中の時期:8月2日
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 りゅう座北極星の近く、晩春から初夏にかけて見ることができる、S字型にうねる巨大な竜の形をした星座です。


 星座の中でもかなり大きな部類に入り、その威容は堂々たる竜の姿をまざまざと思い起こさせます。


 ヘルクレス座の足下に上下逆の五角形をしたりゅう座の頭がくるが、この五角形を形作るβ(ベータ)星ラスタバン、γ(ガンマ)星エルタニン(ともに「竜の頭」)は3等星でほかの星よりも目立つため、ちょうど竜の目のように見えます。


 また竜の尻尾の中ほどにあるα(アルファー)星トウバン(竜)は、紀元前2790年ごろには全天でもっとも天の北極に近かった星で、その前後数百年の間、北極星の役割を務めていました。このころ建設されたエジプトのクフ王の第1ピラミッドの入り口には水平面に対して31度の角度をもった通気口があり、おそらくは当時の北極星であったトウバンを観察するための孔だったと推測されています。

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 さて神話では、りゅう座は世界の西の果て、ヘスペリデースの園にある金の林檎の木を守る100の頭をもつ竜といわれている。でも実際に物語には登場せず、またヘスペリデースの金の林檎の話についてはヘルクレス座うしかい座で紹介しているので、ここ、ではもうひとつの神話、テーバイ国の始祖となったフェニキアの王子カドモスの神話を紹介しましょう。

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★竜の歯から生まれた戦士
 フエニキアにエウローペという美しい王女がいた。


 あるとき、海岸で戯れるエウローペを見初めた大神ゼウスは、1頭の美しい白牛に姿を変えてエウローペに近づき、彼女をクレタ島までさらっていってしまった(おうし座を参照)。


 エウローペの父親、フエニキアの王アゲーノールはポイニクス、キリクス、カドモスの3人の息子たちにエウローペの捜索を命じた。王の怒りようは凄まじく、息子たちに「エウローペが見つかるまでは帰国を許さぬ」と言い渡すほどであった。


 3人はそれぞれ国を出てエウローペを捜したが、いくら捜しても見つけることはできなかった(さすがに地中海を越えた、はるかクレタ島までは彼らの手の及ぶところではなかったのだ)。


 ボイニクスとキリクスはアゲーノールの怒りを恐れ、ついに国を捨てる決心をした。
2人はそれぞれの赴いた土地で町を作り、ポイニキア人とキリクス人の祖となった。


 さて残ったカドモスは、エウローペの居所を伺おうとデルフォイの神殿に赴き、太陽神アポローンに神託を求めた。


 するとアポローンは、カドモスのもとに1匹の牝牛を遣わした。そしてカドモスにもはやエウローペのことはあきらめ、この牛の後ろをついて行き、その止まった場所に町を建ててボイオディア(牝牛の町)と名付けるように命じた。


 牝牛はケーピソス川を渡り、パノペの野を越えてとある丘の上で足を止めた。カドモスはアポローンに感謝を捧げ、その丘に町を建設するためにゼウス(戦女神アテナとする説もある)への生け贄を捧げようと、3人の従者に森の洞穴の泉へ清水を汲みに行かせた。


 とろがその泉は軍神アレースの聖城で、アレースの子ともいわれる金色の鱗をもつ巨大な竜が棲んでいたのである。竜は3人の従者をたちまち殺し、食ってしまった。


 夕刻になり、カドモスは従者の帰りが遅いので様子を見に行くと、従者の死体を貪っている竜と出くわした。カドモスは剣を抜き、激戦の末に竜を討ち果たし、その顎を剣で木に縫い止めてしまった。この竜がやがて天に昇り、りゅう座になったといわれる。
 さて竜を倒したとはいえ大切な従者を失って、カドモスは独りきりになってしまった。


 するとそのとき、アテナがカドモスに神託を告げた。


「その竜の歯を抜き、地を耕してそこに蒔きなさい。そうすれば失った従者にも勝る、武に優れた民を手に入れることができるでしょう」


 カドモスは言われたとおりに竜の歯を抜き、地を耕してそこに蒔いた。すると大地から槍と甲冑をまとった戦士が何人も生まれ出て、互いに殺し合いをはじめたのである。
 カドドモスは恐れから武器を構えたが、彼らは「我らが戦いに加わらないでいただきたい」とカドモスを押しとどめ、自分たちだけの血なまぐさい殺りくへ没入していった。


 やがて戦いは終わった。生き残った戦士はエキーオーン、ウーダイオス、クトニオス、ビュベレーノール、ペローロスの5人だけであったが、彼らこそがもっとも屈強な戦士だった。戦士たちはカドモスに忠誠を誓い、協力してボイオディアの町を建設した。


 そして彼らがボイオディアの町の祖となり、やがてテーバイ国のもっとも古き家柄となったのだといわれる。

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「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」