ケンタウルス座

ケンタウルス座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~

■よく見える季節:6月ごろ(一部南天)。
■20時南中の時期:6月7日
~~~~~~~~~~

 ケンタウルス座は初夏のころ、南の地平線近くに姿を現す星座です。

 星座の形は横から見た馬の形に、隣のおおかみ座まで届く手が肩のあたりから伸びています。

 中には明るい星もありますが、日本からでは上3分の2ほどまでしか見えないので、あまり馴染みはないかもしれませんね。なお、「ケンタウルス」とはケンタウロスラテン語読みです。

 星図では、右手に槍を構えた半人半馬の生物ケンタウロスの姿として描かれています。左手は隣のおおかみ座をつかんでおり、いまにも槍で貫こうとしている様子です。

 2つの星座がくっついて描かれることからわかるように、おおかみ座はケンタウロスが神々へ捧げる供物であるとして、ケンタウルス座の一部と考えられていました。

 ケンタウルス座の前足にあるα(アルファ)星リギル・ケンタウルスケンタウルスの足)からβ(ベータ)星ハダル(地面)を結んだ線をさらに延ばすと、南天でもっとも有名な星座・南十字星にたどり着き、さらにその先が南極を指します。そのため、この2つを「南の指極-(サザン・ポインターズ)」と呼びます。

 また、ケンタウルス座のω星はぼんやりとした暗い星のように見えますが、実際には1つの星ではなくいくつもの恒星が集まった球状星団です。彗星でも有名な17世紀イギリスの天文学者ハレーが初めて星雲として星図に記したが、いて座にも同じ名のΩ(ω(オメガ)の大文字)星雲があり、略してオメガ星雲というと非常に紛らわしいです。

 

 神話では、ケンタウルス座はその名のとおり半人半馬の生物ケンタウロス族として描かれています。ケンタウロス族は賢者ケイローン(射手座)をはじめとして神話に数多く登場しています。

~~~~~~~~~~

ケンタウロスの発祥
 テッサリアを統べる王にイクシオンという者がいた。

 彼はオイカリアの王デイオネウスの娘、王女ディーアーと結婚するはずだったが、式をすませて引き出物を渡すときになると、イクシオンはデイオネウスを焚火の中に落として焼き殺すという事件を引き起こした。

 義父を殺した罪は重く、誰もイクシオンと親しく付き合おうとも、またイクシオンの罪を浄めてやろうともしなかった。

 その様子を見て大神ゼウスはイクシオンを哀れに思い、彼の罪を浄めてやった。ところが、イクシオンはここでもまた神をも恐れぬ暴挙に出たのである。

 イクシオンは女神ヘーラーに分をわきまえぬ恋をし、しかもヘーラーの寵愛が自分の上にあると人々にふれて回った。

 それを聞いたゼウスとヘーラーははなはだ立腹し、雲で作ったヘーラーの幻をイクシオンに与えた。イクシオンは幻とも気付かず、雲と交わった。

 この雲が宿して生まれた子が上半身が人聞で下半身が馬というケンタウロスである。ケンタウロスは父であるイクシオンの性(さが)を受け継ぎ、野蛮にして粗暴、神を敬うことを知らない一族となった。彼らはテッサリアのペリオン山地に棲み、付近を荒らし回って人々から恐れられたという。

 イクシオンはこののち、冥府の底タルタロスに落とされ、激しく燃えさかる火の車に縛りつけられて永劫の責め苦を受けているという。

  ただし、ケンタウロス族の中でも賢者として人徳にあふれたケイローンと次に繋がるフォーローの2人はイクシオンの子ではない。ケイローンはゼウスの前に世界を清めていたティタン神族の王クロノスと海神オケアノスの娘ピリュラの間に生まれた子であり、フォーローは酒神バッカスの育て親であり、馬の耳と蹄をもつシーレーノスとトネリコの精女メリアスとの子である。

 この2人はしばしば悪役として描かれるケンタウロス族の中にあって、唯一善の質をもった者たちである。


★毒に倒れた不運の戦士
 英雄ヘラクレスが12の功業のひとつ、エリュマントスの大猪退治をしたとき(へルクレス座を参照)、ヘラクレスはフォーローというケンタウロスと親しくなった。

彼は酒神バッカスの義兄弟にあたり、バッカスから「ヘラクレスが来たら開けるよに」とひと壷の美酒を受け取った。

 2人が杯を酌み交わしていたとき、酒の臭いを嗅ぎつけたほかのケンタウロス族がフォーローとヘラクレスに襲いかかってきた。怒ったヘラクレスは、以前退治したレルネのヒドラ(海蛇座)の血から取った猛毒を塗った矢で彼らを追い立てた。並ぷ者なき強さを誇るヘラクレスに、かなわじと見たケンタウロスたちはちりぢりに逃げていった。

 ところが、たまたま落ちた矢を拾い上げたフォーローが鏃に塗っていたヒドラの毒にふれ、運悪く死んでしまった。

 ゼウスがそのことを哀れに思い、フォーローを天に上げて星座にしたという。

 なお、このときヘラクレスは逃げたケンタウロスを追いかけ、過ってケンタウロスの賢者ケイローンに毒矢を射かけてしまった。このときの矢傷が原因でケイローンは死んでしまうのである(射手座を参照)。


★英雄を殺したケンタウロスの睨い
 ヘラクレスが12の功業を成し終えたあとのこと。彼は妻デイアネイラを連れて、エウエノス川を渡ろうとした。だが川は深くて流れも速く、とても渡れそうにない。

 そのとき、ネッソスという1人のケンタウロスが現れ、2人を乗せて川向こうまで送ってやろうと申し出た。

 ヘラクレスがこの申し出を受けると、ネッソスはまずデイアネイラを乗せ、急流を難なく渡って向こう岸に着いた。

 ところが、これはネッソスの謀り事であった。岸に上がるやいなや、ネッソスは欲望に身をたぎらせ、デイアネイラに襲いかかったのだ。

 それを見たヘラクレスヒドラの猛毒を塗った矢をつがえ、ネッソスを射た。矢はネッソスの身体に突き刺さり、ヒドラの毒はたちまち全身に回った。

 死に瀕したネッソスは、デイアネイラに「もし夫が浮気をしたなら、夫の下着に私の血を塗るといい。その愛を取り戻せるだろう」と言ってこときれた。

 そののち、ヘラクレスがオイカリアの王女イオレーを妾にしたとき、夫の愛を失うことを恐れたデイアネイラは、かつて言われたとおりヘラクレスの下着にネッソスの血を塗った。

 ところが、ネッソスの血は愛を取り戻す薬などではなく、彼の身体に回ったヒドラの猛毒だったのだ。これにふれたヘラクレスはたちまち全身がただれ、すさまじい苦しみにさいなまされた。ヘラクレスはたまらずオイテ山に火葬壇を築かせると、自らその火の中に身を投じた。ついにここで不死の英雄もガ尽きたのである。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

いるか座

いるか座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~

■よく見える季節:9月ごろ。
■20時南中の時期:9月26日
~~~~~~~~~~

 

 いるか座は夏、天の川のほとりに見える、小さな菱形に尻尾のついた星座です。

 3等星以上の星はなく、あまり明るい星座ではありませんが、形が天の川で飛び跳ねるイルカをたやすく思い浮かべさせ、とても印象深いです。

 地中海に面したギリシアだけに、イルカに関する神話、伝説は比較的多いです。シチリア島をはじめ、各地の都市国家でイルカをモチーフにしたコインが作られています。やはりイルカの賢さと愛らしさが、ギリシアの人々をひきつけてやまなかったのではないでしょうか。

 日本ではいるか座はその形どおり菱星と呼ばれている地域もあります。また、ヨーロッパの一部では聖書に登場する「ヨブの棺」と呼ぶところもあるそうです。

 いるか座のα(アルファー)・β(ベータ)星はそれぞれスアロキン(Sualocin)、ロタネヴ(Rotanev)
という名前が付いていますが、これについてはちょっとおもしろい話があります。

 この2つの星に名前を付けたのは19世紀のイタリアの天文学者ジュゼッペ・ピアッツィですが、その助手で、のちに後継者となったニコロ・カッチァトーレ(NicolloCacciatore)という人がいました。

 この「ニコロ」をラテン語に直すと「ニコラス(Nicolaus)」となります。また、「力ッチァトーレ」というのはイタリア語で「狩り」の意味ですが、これを同じ意味のラテン語に直すと「ヴェナトール(venator)」となります。

 これらのスペルを逆から読むと、スアロキン、口タネヴとなることに気付かれましたでしょうか? まるでジョークのようですが、ピアッツィとカッチャトーレのユーモアセンスを感じさせます。

 ここで紹介する神話は数あるいるか座の神話の中からもっとも有名なもの、楽人アリオンを救ったイルカの話と、海神ポセイドンと精女アンフィトリテを結びつけたイルカの話を紹介しましょう。

~~~~~~~~~~

 

★楽人アリオン
 エーゲ海に浮かぶレスボス島に、アリオンという優れた楽人がいた。

 あるとき、アリオンコリントスの王ペリアンデルの命令を受け、音楽コンクールに出場するためにシチリア島へ赴いた。

 アリオンはその優れた楽才を遺憾なく発揮し、コンクールで見事優勝して莫大な賞金を手に入れた。

 さてコンクールが終わったあと、アリオンはペリアンデルの宮殿に戻るために船に乗った。

 船は洋上に滑り出し、天候も良く、すべては順調にいくかと思われた。

 どころが船旅の途中、船員たちがアリオンが大金を持っていることを知り、それを奪おうと襲いかかってきたのだ。

 アリオンは甲板の縁に追いつめられた。陸地は遠く、泳いで逃げるわけにもいかな そこでアリオンは「せめて楽人らしく死にたい。私に曲を弾かせてくれないか」と言った。

 アリオンは船縁に立つと、美しい音色で琴をかき嗚らした。

 するとその音色に魅かれてたくさんのイルカが集まってきた。アリオンは海中に身を躍らせイルカの背にまたがって、無事ペリアンデルの宮殿へとたどり着いたのである。

 この功績により、イルカは天に昇げられて海豚座となったのだといわれる。

 なお、アリオンを襲った船員たちはレスボス島に着いたあと、アリオンが乗っていないことについて□々にでまかせを言ったため、全員が傑にされたという。


★ポセイドンの使い
 ある日、海神ポセイドンは1人の精女に心を奪われた。海の老神ネーレウスの娘、アンフォトリテである。

 ポセイドンはアンフィトリテがほかの娘たちと楽しく踊っているところに近寄り、強引にアンフィトリテをさらって妻とした。だが、アンフィトリテはポセイドンが嫌でたまらず、隙を見て逃げ出してしまった。

 ポセイドンは世界中を探し回ったが、アンフィトリテの居場所はわからなかった。

 なぜなら、アンフィトリテは海神オケアノス(オケアノスは大神ゼウスたちオリュンボス神族以前に世界を治めていたティタン神族の生き残りとされている。ポセイドンのように海を統べる神、というよりは海・河川そのものという存在だったようだ)のもとに逃げ込み、かくまってもらっていたのだ。

 彼女の居場所を見つけたのは、ポセイドンの巻属たる1匹のイルカだった。ポセイドンはアンフィトリテに頭を下げて頼み込み、ようやくアンフィトリテと和解することができた。この功績により、イルカは天に昇げられてイルカ座となったのだという。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

わし座

わし座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~

■よく見える季節:9月ごろ。
■20時南中の時期:9月10日
~~~~~~~~~~

 わし座は夏、東の空で事座と天の川をはさんで向かい合う位置にある星座です。

 星座の形は1等星、a星アルタイル(「飛ぶ鷲」の意味)を中心に、やや形の崩れた十字形をしています。星図では下のほう、β(ベータ)星アルシャイン(襲う鷲)を頭にして、翼を広げて下降する鷲の姿として描かれています。星図によってはその爪に絶世の美少年ガニュメーデス(みずがめ座)をつかんでいることもあります。

 わし座は古代バビロニアをはじめとしてギリシア、アラビアなど多くの地域で鳥としてとらえられてきましたが、古代ギリシアの詩人アラトスの著書「ファイノメイナ(星空)」ではわし座を「小さな形の」と形容しています。このことから察するに、当時のわし座は現在のように翼を広げた姿ではなく、(α、β、γの3つの星だけを指してわし座としていたのではないかと推測されています。このことは、琴座のα、ε、ζの3つを結んで「落ちる鷲」と呼んだのと対照しています。

日本では、アルタイルは七夕伝説に登場する彦星(牽牛星)で有名だが、ほかにも「犬飼星」「牛飼い星」などの名でも呼ばれています。アイヌでは「ウナルベクサ・ノチウ(老婆を渡す星)」の名でよびます。この名前は神が化けた老婆が川を渡りたがっているのを、一生懸命船を漕いで渡してあげた青年がその功績により星になった、という伝説に基づくものです。

 ギリシアでは、数多くの神話に鷲が登場します。鳥は空の生き物であるために神々と結びつけて考えられることが多く、とりわけ鷲は雄壮で強い鳥であったから、大神ゼウスなどの強力な神と結びつけて考えられることが多かったのでしょう。

 神話では、ゼウスが美少年ガニュメーデスをさらうために変化した鷲の話を紹介しましょう。

~~~~~~~~~~

★美少年をさらった鷲
 トロイア国に、ガニュメーデスという美しい少年がいた。その美しさはいかなる美女よりも素晴らしく、噂はやがて天上界まで響いていった。

 ガニュメーデスの噂を耳にしたゼウスは、鷲の姿をとって(あるいは使いの鷲を遣ったともいわれる)トロイア国まで出かけた。そしてイーダー山で羊を追いかけているガニュメーデスを目にし、その美しさに一目で参ってしまったのである。

 ゼウスはさっそく鷲の爪でガニュメーデスをつかむと、そのまま天上界まで連れ去っていってしまった。そしてガニュメーデスに永遠の若さと命を与え、神々の宴席に待って神酒ネクタルを杯についで回る役目を与えたのである。

 このときゼウスの化けた鷲の姿が星になり、鷲座になったという。また、ガニュメーデスはゼウスの寵愛を受け、水がめ座となったのである。

 ゼウスはガニュメーデスの父親、トロイア王ラーオメドーンに息子の礼として風のように速く走る神馬を与えた。

 ところがのちに、この神馬がラーオメドーンと英雄ヘラクレスヘルクレス座)の間に不和をもたらし、悲劇を招くことになる。

 

トロイア後日譚
 ラーオメドーンはトロイアの町に城壁を築こうと考えた。海神ポセイドンと太陽神アポローンはラーオメドーンの人格を試すため、普通の人間に変装し、城壁を築くのを手伝った。ところが城壁が完成してもラーオメドーンは規定の報酬を払おうとしなかったため、トロイアの町に両神の呪いが降りかかることとなった。

 アポローンは町に疫病を流行らせ、ポセイドンは海から怪物を遺わして人々を襲わせた。困窮したラーオメドーンが神託を伺うと、王女ヘーシオネーを怪物の生け賛に捧げれば呪いはとけよう、と答えが返ってきた。

 仕方なくラーオメドーンはヘーシオネーを海岸の巌にくくりつけた。だがちょうどそのとき、アマゾンからの帰途にあったヘラクレストロイアヘとやってきた。

 ヘラクレスはラーオメドーンの持つ神馬を報酬とすることで怪物を倒すことを約束した。果たして英雄の前に怪物は倒され、ヘーシオネーは助かったのだが、ラーオメドーンはまたしても報酬を払うことを渋った。

 ヘラクレスは先を急ぐ旅であったのでその場は引いたが、のちに12の功業を成し終えたあと、復讐のために軍隊を率いてlヽロイアを攻め滅ぼすのである。


★さまざまな伝説に見られる鷲
 わし座についてはこの神話のほかにも、ゼウスが幼いころに神酒ネクタルを運んできた鷲であるという説や、神々と巨神族との戦いでゼウスの雷電を持って勲功を立てたので星になったという説、また人間に神々の秘密を教えたために岩山に傑にされた巨神プロメーテウスの内蔵をついばむ鷲という説もある(や座を参照)。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

や座

や座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~

■よく見える季節:9月ごろ。
■20時南中の時期:9月12日
~~~~~~~~~~

 や座は夏の東の空、天の川の中ほどに見えるごく小さな星座です。

 星座の形はそれぞれ4等星と5等星が2つずつ、計4つの星が横にしたY字の形を描きます。形はそのまま矢の姿をしているので非常にわかりやすいです。

 や座はかなり古くから知られた星座で、ギリシアフェニキア、アラビアなどほとんどの地域で矢としてとらえられていました。

 ギリシア神話では、弓矢が剣や槍よりも頻繁に姿を見せます。おそらく剣や槍といった戦闘専門の武器よりも、弓矢のほうが狩りなど生活に密着した道具であったためでしょう。

 そうした背景もあって、この星座にまつわる神話は数多くあります。愛の女神アフロディテーの息子・愛の司神工ロース(キューピッド)の持つ恋の矢であるという説や、巨神族との戦いで活躍した鷲(わし座)が持っていた雷電の矢をあらわしたものとする説、また名医アスクレーピオス(へびつかい座)が大神ゼウスによって殺されたとき、アスクレーピオスの父である太陽神アポローンが復讐のために、ゼウスの雷光を作った工匠キュクロプスたちを射殺した矢であるともいわれています。

 ここではそうした伝説のひとつ、ヘラクレスとプロメーテウスの物語を紹介しましょう。

~~~~~~~~~~

★英雄と予言者
 スキュティス山の頂には、巨神プロメーテウスが岩に鎖で傑にされていた。

 プロメーテウスは神々の中でもとくに賢く、予言者としての力もあった。彼は人類にさまざまな知恵や文化を授けてきたのだが、教えることを禁じられていた火の秘密までも人類に与えてしまったために、ゼウスによってここにずっと縛りつけられていたのだ。

 彼に与えられた罰は身動きを取れなくするだけではなく、昼間になると無数の鷲がプロメーテウスの身体に襲いかかり、内蔵をついばんでひどい苦痛を与えた。

 なまじ神の身体をもっているために、夜になるとプロメーテウスの身体は癒え、内蔵は元どおりになってしまう。そしてまた翌朝になると鷲がやってくるのだ。延々と繰り返されるこの苦しみに、プロメーテウスはただじっと耐えるしかなかった。


 プロメーテウスが磔にされてから無限の時間が過ぎたかと思われたころ、プロメーテウスのそばを英雄ヘラクレスが通りがかった。ヘラクレスは狂気に陥って妻と子を殺してしまった罪を償うため、ティーリュンスの王エウリュステウスに仕えており、エウリュステウスの命令でヘスペリデースの園にあるという金の林檎を取りに行く途中だった(ヘルクレス座うしかい座を参照)。

 ヘラクレスはプロメーテウスが鷲に襲われているのを見ると、持っていた弓矢で鷲すべて撃ち落としてしまった。このときにヘラクレスの射た矢がや座になったという。

 プロメーテウスはヘラクレスに感謝し、金の林檎を手に入れるには天を支える巨神アトラス(うしかい座)に頼むといい、と知恵を授けた。この助言のおかげで、ヘラクレスは見事に金の林檎を手に入れることができたのである。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

はくちょう座

はくちょう座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~

■よく見える季節:9月ごろ。
■20時南中の時期:9月25日
~~~~~~~~~~

 

はくちょう座は夏から秋にかけて天頂付近に見られる、巨大な白鳥の姿をした星座です。

はくちょう座は、七夕伝説で有名なわし座の1等星アルタイル(彦星)、こと座の1等星ベガ(織姫)の間にある天の川に、ちょうど橋を架けるような格好で浮かんでいます。

 星の配列はγ(ガンマ)星サドル(「胸」の意味)を中心に巨大な十字形を描き、南に向かって翼を広げ、飛んでいく雄壮な鳥の姿を思い起こさせます。ギリシアフェニキアでは南に渡っていく白鳥の姿としてとらえ、古代エジプトでは雌鶏と見立てたようです。アラビアでは「シンドバッドの冒険」に登場する巨鳥ロックや、飛びいく鷲として見ています。

 また、形がちょうど十字を描くので、南十字星に対して北十字星と呼ばれることもあります。

 近世になって白鳥座を「カルヴァリの十字架」「キリストの十字架」と呼ぶこともありました(「カルヴァリ」とは、ヘブライ語の「ゴルゴダ」のラテン語系英名。キリストが磔(はりつけ)にされた丘の名前で、元の意味は「頭骨」)。

 はくちょう座のα(アルファ)星、1等星デネブの名はアラビア語の「アル・ダナプ・アル・ダジャジャー(雌鶏の尾)」が短くなったものです。わし座のε(イプシロン)、ζ(ゼータ)にも同じくデネブという星がありますが、普通デネブといえばこの白鳥座の星を指します。

 もともと「デネブ」とは「尾」意味なので、動物を模した星座の名に付けられるのは、不自然なことではありません。

 はっきりと区別するときは「デネブ・~」と後ろに区別するための名前がつきます。白鳥座の場合はデネブ・キュグ(白鳥の尾)となります。


 β(ベータ)星アルビレオ(「くちばし」という意味だとする説がありますが、どうやらそれは誤りらしく、正確な語源・意味はわかっていません)は夜空でも代表的な二重星です。

2つの恒星が互いの周りを回る様は、天体に興味があるならばー度は見ておきたい星ですね。

~~~~~~~~~~

 

 さて神話では、一般的には白鳥座は大神ゼウスがスパルタの王妃レダのもとへ行ったときに化身した白鳥の姿だとされています。

 また別の神話として、太陽神アポローンの息子パエトーンが太陽を曳く馬車からエリダヌス川(エリダヌス座)に落ちたときその亡骸を探し続けた親友(もしくは兄弟の)キュグナスが白鳥に変化した姿だとされています。

~~~~~~~~~

 

★白鳥のゼウス
 スパルタ王、テュンダレオスの妻レダは非常に美しかった。

 いつものことだが、大神ゼウスもまたその美しさに魅了され、なんとかレダをものにしたいと考えて一計を案じた。

 ゼウスは愛の女神アフロディテーに協力を頼み、アフロディテーに1匹の鷲に化けてもらい、自分は白鳥となってスパルタヘ赴いた。

 白鳥のゼウスはレダが窓辺にいるのを確かめると、彼女の見ている前でアフロディテーの化けた鷲にわざと追い回されはじめた。その様子を見ていたレダは白鳥をかわそうに思い、腕を広げて白鳥を呼んだ。

 ゼウスの化けた白鳥は得たりとばかりにレダの胸に飛び込み、想いを遂げたのである、このときの白鳥の姿が白鳥座になったといわれる。

 その後、レダは2つの卵を生み、その卵からカストルポルックス(双子座)、クリュタイムネストラヘレネの4人の子どもが生まれるのである。

 

★友を捜す白鳥
 太陽神アポローンの息子に、パエトーンという子がいた。

 パエトーンはアポローンの息子であることに誇りをもっていたが、友の誰もがそれを信じようとしないため、パエトーンはそれを確かめるためにアポローンの住む宮殿を訪ねた。

 アポローンはパエトーンが自分の息子であることを認め、その証拠に願いをなんでも1つ叶えてやろうと言った。

 するとパエトーンは、友人たちに自分がアボローンの息子であることを証明するために太陽を曳く馬車を操らせてくれと頼んだ。

 この意外な申し出に、アポローンはひどく渋った。馬車を曳く馬はひどく気性が荒く、アポローン以外ではたとえ神々といえども御することができなかったからだ。

 だがパエトーンはアポローンの言葉を盾に取り、反対を押し切って馬車とともに大空に飛ぴ出していった。

 馬車ははじめ順調に進むかに見えた。ところが、馬たちは手綱を取るのがアポローンでないと知るや途端に暴れはじめ(別説では、太陽の通り道である黄道にいたさそり座のそばを通ったとき、さそり座が馬の足を刺したために暴れたためともいう)、馬車は滅茶苦茶に走りはじめてしまった。

 馬車が近づいたものはすべて太陽の火に焼かれ、多くの森や都市が劫火に包まれた。エチオピア人(アフリカ人のことであろう)の肌が黒くなったのと、サハラ砂漠ができたのはこれが原因だといわれている。

 この惨状を収拾すべく、ゼウスは雷光を放ってパエトーンを撃ち殺した。パエトーンの亡骸は馬車から転げ落ち、はるか下方のエリダヌス川(エリダヌス座)へと落ちていったのである。

 その様子を見ていたパエトーンの親友(兄弟との説もある)キュグナスは、パエトーンの亡骸を探して、エリダヌス川の中を必死で捜し続けた。

 いつまでも友を捜し続けるキュグナスに哀れを感じたゼウスは、キュグナスを白鳥の姿に変えてやった。これがのちに天に昇り、白鳥座となったのだという。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

こと座

こと座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~

■よく見える季節:8月ごろ。
■20時南中の時期:8月29日
~~~~~~~~~~

 こと座は天の川のほとり、ほぼ天頂に浮かぶ、さそり座とともに代表的な夏の星座です。

 星座の形は小さな逆L字型をしています。星座の形とは若干異なっていますが、星図ではよく楽器のリラ、つまりU字型の枠に弦を張ったハープが描かれます。でも、古代エジプトの墳墓から発掘されたハープはL字型をしていて、星座が作られたころの古代オリエントではこのL字型のハープが一般的だったようです。

 この星座のα(アルファー)星ヴェガ(ベガ)は、日本でも有名な七夕の織姫(織女星)なので、知っている人も多いでしょう。このヴェガという名はアラビア名の「アル・ナスル・アル・ワーキ(落ちる鷲)」が変化したものですが、これはヴェガと隣にあるε(イプシロン)、ζ(ゼータ)の2つの星をつなぐとV字型になり、翼を畳んで下降する鷲の姿に見えることからきています。

 また、ヴェガは約1万2000年後に新しい北極星となることが予測されています。

~~~~~~~~~~

 神話では、琴座は伝説的な吟遊詩人、オルフェウスの持っていた琴だとされています。

 織姫と彦星の恋物語は有名ですが、ギリシア神話においてもこの星座には美しい悲恋の物語が込められています。

~~~~~~~~~

★吟遊詩人オルフェウスの物語
 トラキア王オイアグロスと、9人の音楽の神ムーサイの1人、カリオベーの間にオルフェウスという子がいた(太陽神アポローンとカリオペーとの子とする説もある)。

 さて、アポローンは亀の甲羅に7本の弦を張って作った竪琴を持っていた。これはアイディアにあふれた伝令神ヘルメスが生まれてすぐ作った琴で、アポローンは自分の家畜と引き換えにそれを譲り受けたのだった。

 アポローンは楽才に恵まれたオルフェウスに竪琴を与え、オルフェウスは9人のムーサイをたたえるという意昧を込めて、竪琴にさらに2本の弦を加えて9本の弦をもつ竪琴にしたという。やがて、オルフェウスギリシアでもっとも優れた吟遊詩人となった。彼がひとたび竪琴をかき鳴らせば動物たちでさえ聞き惚れ、強風にざわめく樹々や荒ぶる海でさえ収まるほどだったという。

 オルフェウスはイオールコス国の王子イアーソーンの率いるアルゴ号探検隊にも加わった。オルフェウスは快速船アルゴ号の行く手を阻む嵐を竪琴の音で鎖め、シチリア島の近くで美しい歌声で船員を惑わす魔物セイレーンに襲われたときは、オルフェウス自身の歌声でセイレーンの魔力をうち破った。仲間の1人ブテスはセイレーンのもとへ行ってしまったが、この活躍によって残る英雄たちの命は救われたのである。

 さて、オルフェウスには木の精女エウリュディケーという美しい妻がいた。夫婦はともに愛し合い、幸せな生活を築いていたが、アポローンの息子の1人、アリスタイオスがエウリュディケーに横恋幕するという事件が起きた。

 あるとき、アリスタイオスはエウリュディケーが1人で野原にいるのを見つけ、彼女を手に入れようとして追いかけた。エウリュディケーは走って逃げたが、そのとき誤って踏みつけた毒蛇に噛まれてしまい、死んでしまった。

 最愛の妻を失ったオルフェウスは、冥界に妻を取り戻しに行くことを決心した。タイナロスの岬にある洞穴からオルフェウスは冥界へと下り、ステュクス河(冥界と現世を隔てる川)の渡し守であるカロンや、地獄の門を見張る3つ首の番犬ケルベロスを美しい歌声で宥め、通り抜けていった。

 やがて冥界の王ハデスの前にたどり着いたオルフェウスは、妻を返してくれるように懇願した。しかし、もちろんそれをハデスが了承するはずもない。そこでオルフェウスはあらん限りの声で歌を歌い、竪琴を奏でた。

 その歌声の美しさに、さしものハデスも心を動かされ、エウリュディケーを連れて帰ることを許した。ただし、地上に戻るまでエウリュディケーは必ずオルフェウスの後ろについて歩き、ひと言も発してはならないこと、オルフェウスは決して振り向いてはならないことという2つの条件付きだった。

 オルフェウスは妻を連れて帰途についた。2人はともにハデスとの約束を守り、黙って歩いた。が、出口が見えたとき、オルフェウスは険ろがあまりに静かなので、ハデスが嘘をついたのでは、という疑念にかられてつい、後ろを振り向いてしまった。

 すると、果たしてそこには悲しげな顔をしたエウリュディケーが立っていた。

 .そして、瞬く間にエウリュディケーの身体は冥界に引き戻されてしまったのである。

 オルフェウスは自分の愚かさを呪い、各地をさまよった。彼は亡き妻を愛するあまり、決してほかの女性に目を向けようとしなかった(一説には少年しか愛せなくなってしまった、とするものもある)。

 そして最後にはオルフェウスに相手にされないことに腹を立てた女たちによって八つ裂きにされ、ばらばらになった身体をヘブロス川に流されてしまったのである。

 彼の持っていた竪琴は身体とともにヘブロス川へと投げ捨てられたが、オルフェウスの楽才を惜しんだ大神ゼウスが拾い上げて天に昇らせ、星にしたという。これが琴座である。

 なお、彼の遣骸はレスボス島に流れ着き、そこに住む人々の到こよって葬られた。

 オルフェウスの墓からは長い間、悲しげな歌声と竪琴の音が流れ出たという。

 

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」

へび座

へび座に関するお話をいくつかの書籍より集めています。

~~~~~~~~~~ 

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」編

~~~~~~~~~~

■よく見える季節:7月、8月ごろ。
■20時南中の時期:7月12日(頭)、8月17日(尾)

~~~~~~~~~~

 へび座は夏の南の空にへびつかい座と重なって存在する、珍しい星座です。

 形は西から東へ10個ほどの星が反り返るように並び、胴体の中央部分にあたる星をへびつかい座の腰部と共有しています。いちばん西側の端で星が小さな三角形を形作り、これが蛇の頭となっています。星座そのものはそれほど明るくはないですが、身をよじり、うねらせる蛇の姿が鮮明に浮かび上がってきます。

 星をいくつか共有していることからもわかるとおり、蛇座はもともと蛇遺座の一部として考えられていましたが、プトレマイオスが独立させました。星図では普通、へびつかい座につかまれた蛇の姿で描かれています。

 また、通常は頭から尻尾までを通してへび座とよびますが、へび座の西側半分を「カプト(Caput:頭)」、東側半分を「カウダ(Cauda:尾)」と呼ぶこともあります。

 蛇は医術のシンボルであり、とくにこのアスクレーピオス(へびつかい座)の持つ蛇は英知、慎重さ、回復力など、医療に関係するあらゆる能力の象微とされています。

~~~~~~~~~~

★薬草術のはじまり
 太陽神アポローンテッサリアの王女コローニスの息子にアスクレーピオス(へびつかい座)という者がいた。彼はケンタウロス族の賢者ケイローン(いて座)によって育てられ、さまざまな学問を身につけた。とくに医術にはきわめて優れた才能をもち、成人するころには師匠であるケイローンを追い越してしまうほどだった。

 あるとき、アスクレーピオスが友人の家を訪ねたとき、たまたま彼はそこで1匹の蛇を打ち殺してしまった。するとそこに別の蛇が現れ、草むらに入っていったかと思うと、1束の草をくわえて戻ってきた。そしてその草を死んだ蛇になすりつけると、死んでいたはずの蛇がたちまち生き返ってしまったのである。これを見てアスクレーピオスは薬草の効果を知り、医術の中に薬草術が生まれたという。

★アスクレーピオスの化身
 蛇は医術の象徴であると同時にアスクレービオスの使いであるともいわれている。

 紀元前293年にローマで悪疫が流行ったころ、アスクレービオスがローマに呼ばれたが、そのとき彼は蛇の姿をとって現れたという。

 アスクレーピオスは死後、医薬の神としてあがめられた。古代の地誌家たちの記したところによると、コリントスの南、エピダウロスにはアスクレーピオス大神殿があったという。この神殿には無数の蛇が養われているが、性格はおとなしく人に危害は加えないという。とくに薄茶色をした蛇はアスクレーピオスの使いとして神聖視されていた。医薬の神の神殿だけあって、神殿の周囲にはさまざまな病気・ケガの患者を治療できる施設が軒を連ね、宿泊のための設備が整っていたといわれる。

 また、コース島にもアスクレーピオスの神殿がある。コース島は温和な気候の土地として知られ、アスクレーピオスの末裔といわれるアスクレーピアダイの一族が居住しこいた。彼らは医学を教える医塾を開き、医聖と呼ばれるヒッポクラテースを輩出した。その遺風はローマ時代まで受け継がれ、コース学派の名を轟かせたのである。

~~~~~~~~~~

「星空の神々-全店88星座の神話・伝承」